脳内には、外からの情報を処理するため様々な神経細胞が集合しており、それぞれの働きによって感情が生まれたり行動にあらわれたりしています。脳の構造について理解を深めておくことは、心の不調の原因を探る手助けにもなるので、神経伝達物質との関係性やメンタルへの影響について詳しくみていきましょう。
このコラムの監修医師
新宿うるおいこころのクリニック 院長
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。 私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
目次
脳の構造はどうなっている?
そもそも脳は、感情や行動といった体全体の動きをコントロールする役割を持つ、自分らしく生きる上で欠かせない臓器です。
脳は、「大脳」「小脳」「間脳」「脳幹」から成り立っており、大脳は思考、小脳は運動調整、間脳は感覚、脳幹は生命維持とそれぞれ異なる役割を担っています。
そのため、喜怒哀楽や立つ座るといった動作、心臓の動き、食欲など全ての行動は、脳の指令によりコントロールされているのです。
それぞれの部位が持つ主な働きは以下のとおりです。
脳の部位①:大脳(新皮質)
<特徴>
- 脳の約80%は大脳がしめる
- 前頭葉・後頭葉・側頭葉・頭頂葉の4つに分けられる
<働き>
- 運動・記憶・言語理解
- 視覚・聴覚情報の処理
- 読み書き・五感の処理
脳の部位②:大脳(辺縁系)
<特徴>
- 視床下部、扁桃体、視床、乳頭様体、海馬が存在
- そのうち扁桃体は、怒りや不安といった感情に反応
<働き>
- 感情の表現・意欲のコントロール
- 記憶・学習のコントロール
脳の部位③:小脳
<特徴>
- 大脳からくる運動命令を調整
<働き>
- スムーズに立ったり座ったりできるよう筋肉に指示
脳の部位④:間脳
<特徴>
- 全身の感覚情報を大脳に伝える
- 自律神経の働きに関わっている
<働き>
- 体内時計の調整
- 体温・ホルモン分泌・食べる・心拍・睡眠などの調整
- 怒り・不安の調整
脳の部位⑤:脳幹
<特徴>
- 生命維持に欠かせない機能をコントロール
<働き>
- 呼吸・血液循環(心臓を動かす)・食べ物の消化・平衡感覚の調整
脳の構造と働き
目や耳、触感などの体が感じ取った情報は全て脳に送られます。情報は、先ほど説明したそれぞれの部位で適切に処理されることで、安定した精神・心を形成したり行動としてあらわれたりします。
また、恐怖や不安を感じた場合は、大脳の辺縁系の中にある扁桃体が情報をキャッチし、ストレスホルモンを分泌させることで動悸や吐き気といった身体反応につなげています。
扁桃体が適切に働いていれば問題ありませんが、何らかの影響で過剰に働くと些細な刺激に対しても強く反応するのです。
脳の構造を知る上で欠かせない「神経伝達物質」とは
神経伝達物質とは、神経細胞から神経細胞へ情報を伝える役目をしている物質のことです。
シナプスと呼ばれる神経細胞同士が情報のやり取りをする部分で、特定の神経伝達物質が放出されることで、身体を動かしたり感情を調整したりしているのです。
神経伝達物質が正常に働くことで心身の健康は保たれていますが、何らかの原因で情報が正しく伝えられなくなると、心身に様々な問題を引き起こします。
シナプスの役割
シナプスは、間接的に神経細胞同士をつなぐ重要な役割を担っています。
脳は神経細胞とグリア細胞で構成され、神経細胞はニューロンとも呼ばれます。そして、ニューロンとニューロンの間で情報が伝達される接合部位をシナプスといいます。ニューロン同士は物理的に接しておらず、神経伝達物質によって情報のやり取りをします。情報はニューロン内では電気的信号で伝わり、シナプス部分で神経伝達物質に変換され次のニューロンに送られ、また電気的信号で伝わり、シナプス部分で神経伝達物質に変換され、次々に伝わっていきます。つまり、脳内のすべての情報は神経伝達物質によってやり取りされているのです。
参考
・働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳|厚生労働省
代表的な神経伝達物質「ドーパミン」「ノルアドレナリン」「セロトニン」「アセチルコリン」について
代表的な神経伝達物質としては、
- 「ドーパミン」
- 「ノルアドレナリン」
- 「セロトニン」
- 「アセチルコリン」
があげられます。
以下では、それぞれの特徴と働きを解説します。
ドーパミンとは
ドーパミンとは、快感や意欲向上に関わる神経伝達物質です。
ドーパミンが働く神経回路はいくつかあり、場所によって快感、決断、運動能力、ホルモン放出など異なる作用を持っています。
やる気や幸福につながる欠かせない物質ですが、ドーパミンが過剰に放出されて脳が活発になりすぎると、依存を引き起こすといわれています。
参考
ドパミン/ ドーパミン|e-ヘルスネット(厚生労働省)
ノルアドレナリンとは
ノルアドレナリンとは、主にストレスに反応して分泌される神経伝達物質です。
ノルアドレナリンが放出されることで交感神経が活性化し、血圧や心拍数が上昇します。普段は、状況に合わせてバランスよく働いていますが、過剰になったり不足したりするとパニック障害やうつ病につながるといわれています。
参考
ノルアドレナリン / ノルエピネフリン|e-ヘルスネット(厚生労働省)
セロトニンとは
セロトニンとは、精神の安定を促す神経伝達物質です。
幸せホルモンとも呼ばれており、興奮や恐怖に関わるドーパミンやノルアドレナリンの働きを抑え、気分を穏やかに保ちます。
セロトニンのバランスが崩れると、うつ病や不安障害を引き起こすことがあるため、心の健康や安定した睡眠に欠かせない物質です。
うつ病や不安障害については下記記事をご覧ください。
アセチルコリンとは
アセチルコリンとは、記憶や学習に関係する神経伝達物質です。
血管拡張や心拍数低下、発汗などの運動機能を促す働きも持っており、身体の様々な機能に関与しています。
筋肉収縮などの作用も持つため、アセチルコリンが過剰になると運動機能に障害が起こります。一方、不足した場合はアルツハイマー病などの認知障害を引き起こすようです。
参考
質量分析でアセチルコリンの脳内分布の可視化に成功—神経疾患の仕組みを解き明かす一助に—|科学技術振興機構(JST)
神経伝達物質と精神疾患の関係
神経伝達物質に何らかの異常が起こり正常に働かなくなると、精神疾患を引き起こすといわれています。
以下では、神経伝達物質と精神疾患の関係について、原因や起こり得るリスクから解説します。
神経伝達物質の異常が起こる原因
神経伝達物質の異常は、ストレスや生活リズムの乱れ、ホルモン不調、遺伝など、様々な要因がきっかけとなります。
例えば、ストレスの多い環境にいる場合、興奮状態が続くことでノルアドレナリンが過剰に分泌され、不安や恐怖を引き起こすことがあります。
原因は1つではなく、複数の要因が絡み合っているケースもあるので、普段から規則正しい生活習慣やストレス管理を意識しておくことが大切です。
セロトニンが不足するとうつ病リスクが高まる
セロトニンが低下すると、意欲低下が起きてうつ病リスクが高まります。
セロトニンは、ストレスが原因で減少すると考えられています。また、
「日光を浴びていない」
「運動が足りない」
などの生活習慣も影響を及ぼすようなので、日ごろから増やす努力をしておくと良いです。
うつ病の原因をより詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。
参考
セロトニン低下によってやる気が下がる仕組みを明らかに-うつなど疾患の病態理解や治療法開発のための重要な手がかり-|国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
ドーパミンの機能異常は,レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)を招く
ドーパミンは、運動機能や快感に関与している神経伝達物質ですが、機能異常によりレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)やパーキンソン病、トゥレット症候群などを引き起こすと考えられています。
ドーパミンの生成が妨げられる原因の一つに鉄不足があげられるので、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)の症状がみられる際は、食生活を見直してみると良いかもしれません。
レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)については下記記事をご覧ください。
参考
ドーパミン機能の多様性を通して統合失調症のドーパミン仮説を再考する|日本生物学的精神医学会誌35巻1号(2024)
ノルアドレナリンが過剰に働くと不安障害や統合失調症につながる
ノルアドレナリンは、集中力を高める働きを持っていますが、何らかの原因で過剰に働くと心身に大きなストレスがかかり、不安障害や統合失調症を引き起こすことがあります。
また、ノルアドレナリンの異常は、幻覚や妄想といった統合失調症の症状とも関連が指摘されています。
不安障害や統合失調症については下記記事をご覧ください。
参考
中枢ノルアドレナリン系の精神医学的意義|山本 健一、榛葉 俊一
神経伝達物質を整えるためにできること
ここでは、神経伝達物質を整えるためにできることについてご紹介します。
セロトニンを増やすためには、食べ物からタンパク質を補う
セロトニンを増やすためには、タンパク質に含まれる必須アミノ酸である「トリプトファン」が必要です。
トリプトファンは体内では生成できず、食べ物などで補う必要があるのでタンパク質が豊富な以下の食材を積極的にとってみましょう。
- 大豆製品(納豆・豆腐等)
- 乳製品(牛乳・ヨーグルト・チーズ等)
- 魚類(カツオ・マグロ等)
- ナッツ類(アーモンド・ピーナッツ等)
ドーパミンを分泌するためには、運動を取り入れる
運動をすることでドーパミンの分泌が促され、気分を高める効果が期待できます。
運動を取り入れる際は、有酸素運動がドーパミンの分泌量増加に良いとされているので、ウォーキングやジョギング、水泳などをすると良いでしょう。
ドーパミン自体、身体を動かしているときに分泌されやすいものなので、週に数回の運動を心がけることがおすすめです。
ノルアドレナリンを整えるためには、ビタミンB6を補う
ビタミンB6の不足は、ノルアドレナリンの過剰を引き起こすことが分かっています。
適切なビタミンB6の摂取が、正常なノルアドレナリンの働きと精神安定をサポートするので、ビタミンB6が含まれる以下の食材を積極的に補うと良いです。
- 魚類(マグロ・鮭・サンマ等)
- 肉類(レバー・ビーフジャーキー等)
- 野菜類(唐辛子・ニンニク等)
- ナッツ類(くるみ・ピスタチオ等)
参考
ビタミンB6欠乏はノルアドレナリン神経系の機能亢進を生じ、統合失調症様行動異常を惹起する|国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
うつ気分やイライラなどのメンタル不調は、ドーパミンやセロトニンの異常が原因かもしれません
「なぜか気分が晴れない」
「些細なことでイライラする」
などのメンタル不調に悩まされている場合、ドーパミンやセロトニンのバランスが乱れていることが原因かもしれません。
これらの神経伝達物質は、気分や感情の調整をする上で大切であり、正常に働かないと感情の不安定さや興味の喪失、ストレスへの過敏反応などを引き起こします。
精神的な不調がみられた際は精神科・心療内科へ行こう
精神的な不調がみられた際は、精神科・心療内科への受診がおすすめです。
精神科・心療内科では、心の悩みを専門的な知識をもとに解決できたり、症状に合う適切な治療を受けられたりします。
病院によっては、カウンセリングを通したサポートも提供しているため、話を聞いてもらいながら気持ちを整理してみると良いです。
新宿うるおいこころのクリニックでは、神経伝達物質の異常で起こる精神疾患の治療に対応しています
今回は、脳の構造と神経伝達物質の関係や精神への影響について解説しました。
神経伝達物質は、神経細胞の情報を伝達する重要な役割を持っており、働きにはストレスや生活習慣、遺伝的要因といった様々な要因が影響しているようです。
神経伝達物質は、過剰に分泌されたり不足したりすることでメンタル不調を引き起こすとされているので、異変がみられた際は病院へ受診してみると良いでしょう。
情緒不安定・精神状態が良くないと感じる際は、新宿うるおいこころのクリニックにご相談ください。
症状は、神経伝達物質の異常からくる不調の可能性があり、検査や診断を通して原因特定と症状改善を目指せます。臨床心理士、公認心理士によるカウンセリングも可能ですので、皆様のご来院を心よりお待ちしております。
よくある質問
ドーパミンが過剰になるリスクを教えてください
ドーパミンが過剰になると、些細な刺激に敏感になったり不安を感じやすくなったりするため、不安障害や統合失調症といった精神疾患の発症リスクが高まります。
セロトニンの役割は何ですか?
セロトニンは、ノルアドレナリンやドーパミンの働きを抑制し、精神を安定させる役割を持っています。セロトニンが正常に働くことで、平常心を保てたり質の良い睡眠につながったりします。