「トラウマ体験から何度も悪夢をみてしまい眠れない」
「時間は立っているのに鮮明に思い出してしまう」
このような症状で悩まされている場合、単なるトラウマではなく心的外傷後ストレス障害(PTSD)が考えられます。
回復には専門的な治療が大切ですが、実際はどのように治していくか分からず放置している方もいるはずです。
そこでこの記事では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方や受診目安について解説します。
このコラムの監修医師
新宿うるおいこころのクリニック 院長
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。 私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
目次
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方6選
では実際に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療法として効果的な6つの治し方について解説します。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)はトラウマと異なり、時間が経つと治りにくくなるので、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の疑いがみられる際は早めの治療が大切です。
治療では、心理療法を用いた心のケアを行ったり、薬物療法を使用したりすることでつらさの軽減を目指します。
治療の種類によってアプローチ法が異なるので、それぞれの特徴をみていきましょう。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方①ソマティック・エクスペリエンシングを活用する
ソマティック・エクスペリエンシングは、身体的な感覚にアプローチすることでトラウマの解消を目指す治療法です。
ソマティック・エクスペリエンシングでは、トラウマが与える身体への影響に着目し、正常な自己防衛反応がさまざまな不調を引き起こすという考えのもと治療を行います。
治療を行う際は、無意識の記憶として保存されているトラウマ体験から派生している身体の緊張や痛みなどに呼びかけ、その時にできなかったこと(逃げる、立ち向かうなど)をイメージとして再現します。
治療を通して、過去のトラウマでの未完了の動作や反応を完了させることで、身体的な反応を和らげる効果が期待されます。
参考
複雑性 PTSD の心理療法における身体―イメージおよび言語を媒介にした心理療法と身体的アプローチ―|田中信市
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方②スキーマ療法でネガティブ思考を変える
スキーマ療法は、ネガティブ思考の根源となる思考回路に焦点を当て、根付いた価値観を変えていく治療法です。スキーマとは、過去の経験が知らず知らずのうちに形成する、自己や世界に対する考え方のことです。
PTSDの患者は、過去のトラウマ経験から「自分はバカにされる人間だ」「誰も助けてくれない」といった否定的なスキーマを抱きがちなため、治療を通して誤った認識を修正し、柔軟でポジティブな考え方ができるよう導きます。
参考
複雑性PTSDに対するスキーマ療法の適用可能性|伊藤絵美
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方③認知行動療法で固執した考えをほぐす
認知行動療法とは、トラウマ体験により生まれた否定的な思考にアプローチし、物事の捉え方や見方を変えていく治療法です。
PTSDになると、記憶や認識のズレが生じて過剰な不安を感じることがありますが、認知行動療法を実施することでトラウマに対する捉え方の修正を目指せます。
以下では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)で用いる代表的な認知行動療法をご紹介します。
持続エクスポージャー療法
持続エクスポージャー療法とは、恐怖などに関する情報処理理論をもとに、トラウマ記憶の修正を行う治療法です。
治療は、記憶が適切に処理されなかったことでPTSDに発展したという考えのもと行い、トラウマに関するイメージなどに改めて向き合うことで、感じている恐怖が誤ったものであると認識させ苦痛を和らげていきます。
参考
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル(治療者用)|金 吉晴、小西 聖子
認知処理療法
認知処理療法とは、トラウマにより生まれた歪んだ考えを修正する治療法です。
PTSDの過剰な罪悪感や自己否定感は、トラウマによって認識が歪められている(自分は愛されてはいけない存在、人は信用できない等)ことが原因と考え、治療を通してネガティブ思考の原因を探ったり、自然に芽生えた感情を大切にするよう促したりします。
認知処理療法では、PTSDのメカニズムやトラウマに対する捉え方などを知っていくため、記憶が整理されて自分自身に向き合えるようになるといわれています。
参考
心的外傷後ストレス障害に対する認知処理療法の実施可能性に関する研究|研究分担者 伊藤正哉 研究分担者 堀越 勝 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター
眼球運動脱感作療法
眼球運動脱感作療法とは、眼球運動を用いながらトラウマ体験に関連する感情や記憶の処理を行う治療法です。
目を動かすことは、脳の情報処理に役立つという考えから誕生した治療法で、PTSDの症状を和らげる効果が期待されています。
治療では、眼球運動を行いながら過去の体験と向き合うことで、記憶を再処理してトラウマによる歪んだ記憶を修正していきます。眼球運動により意識が分散されるため、持続エクスポージャー療法に比べて心理的負担が少ないようです。
参考
戦闘活動による心的外傷後ストレス障害に対する眼球運動性脱感作と再構成法(EMDR)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方④薬物療法で症状を軽減する
薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を用いながら治療をすすめることが一般的です。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は脳内のセロトニンという神経伝達物質の働きを調整する薬で、PTSDに伴う抑うつ症状が緩和されるといわれています。また、PTSDによる不眠や悪夢に悩まされている場合は、向精神薬などを用いることもあります。
薬物療法は、心理療法との併用により高い効果が期待できるとされるため、同時に行うケースが多いようです。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方⑤ブレインスポッティングを行う
ブレインスポッティングとは、一点を見つめながらトラウマ体験に関連する記憶の処理を促し、心身の緊張を解放する治療法です。治療では、脳が反応する「ブレインスポット」を見つめることで、心身を正常な状態へと導いていきます。
ブレインスポットは以下の方法で探っていきます。
- ①自然に見つめた場所に注目する
- ②見つめると呼吸などの身体的な変化がみられる場所を探す
- ③見つめると痛みや熱感など、内側の感覚に違和感が出る場所を探す
参考
ブレインスポッティング:新しい複雑性PTSDへの心理療法|鈴木孝信
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方⑥グループ療法で悩みを打ち明ける
グループ療法は、似た経験をした人たちとの対話を通して、孤独感の解消や感情の整理を促す治療法です。
グループ療法では、自身のトラウマ体験や悩みを安心して話せる環境が整っているため、自分は1人ではないと思えるきっかけとなります。 また、感情や体験を共有することで、自己理解が深まり感情の整理につながるので、心身状態の回復が期待できます。
トラウマが治らない場合は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の可能性があります
トラウマは、通常であれば時間の経過とともに回復しますが、時間が経っても症状が治まらない場合は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の影響が考えられます。
PTSDは、強いトラウマ体験が引き金となり、何度も思い出して恐怖を感じる病気です。トラウマ体験から1ヶ月経過後もフラッシュバックや回避行動といった症状に悩まされている時は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に該当するので専門的な治療を受けると良いです。
トラウマと心的外傷後ストレス障害(PTSD)の違いについては下記をご覧ください。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を防ぐためにはトラウマを治しておくことが大切
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発展を防ぐためには、トラウマを経験した段階で適切なケアをしておくことが大切です。
心身へのダメージを回復させる期間を設けると良いですが、感情を無視したり過度に自分を責めたりしてしまうと、強いストレスから間違った認識を引き起こしPTSDに発展する可能性を高めます。
トラウマは1人で抱えず、専門家のサポートを受けることも大切なので、無理せず積極的に相談するようにしましょう。
トラウマの代表的な治し方
トラウマを治すためには、同じ悩みを持った人との交流や呼吸法の習得を通して、少しずつ感情を整理していくと良いです。
同じ経験をした人と交流することで、自身の抱える悩みを打ち明けやすくなり安心感が生まれます。また、呼吸法を身に付けておくと、フラッシュバックからパニックに陥った際でもリラックス状態を作りやすくなり、気持ちを落ち着かせる助けになります。
下記記事では、トラウマの治し方8選を解説しているので併せてご確認ください。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は精神科・心療内科で治療可能
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、強いストレスから生まれる精神的な病気であり、精神科・心療内科での治療が可能です。
精神科・心療内科の治療では、症状に応じて薬物療法や心理療法を用いて、PTSDに至るまでの原因や記憶の整理をすることでトラウマの解消を目指せます。
些細な不安や睡眠の問題でも早期に解決しておくことが大切なので、何らかのつらさを抱えている方は一度相談してみましょう。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)で病院へ行く目安
トラウマ体験から1カ月経過しても症状が治らない場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の可能性があるので病院へ行くと良いです。
また、フラッシュバックにより外出が怖くなったり、悪夢が怖くて眠れなくなったりしている場合、日常生活に大きな支障をきたすリスクが考えられるので、早期に受診して適切な治療を受けておきましょう。
参考
こころの病気を知る – PTSD|こころの情報サイト(国立精神・神経医療研究センター)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療は新宿うるおいこころのクリニックにお越しください
今回は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治し方や受診目安について解説しました。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療法は、症状に合わせてさまざまなアプローチ法を選択できます。
治療は精神科・心療内科で受けられ、早期に対処しておくことで慢性化を防げるので、日常生活に大きな支障をきたす前に受診するようにしましょう。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状でお悩みの方は、新宿うるおいこころのクリニックへご相談ください。
治療では、医師の診察や公認心理士のカウンセリングにより、トラウマ体験からくるつらさの緩和を目指せます。
不眠や抑うつ気分に悩まされている場合でも、症状に合わせた治療提案が可能ですのでまずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
トラウマと心的外傷後ストレス障害(PTSD)の違いを教えてください
トラウマと心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、正常な心身の反応と精神的後遺症という違いがあります。例えば、命の危険を感じた後にみられる動悸や不眠などの症状は一般的でありトラウマと判断されます。一方、時間とともに回復するはずのトラウマが長引いて、何度もフラッシュバックしたり悪夢をみたりする症状は正常な反応ではないので心的外傷後ストレス障害(PTSD)と判断されます。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)になっても仕事は続けられますか?
心的外傷後ストレス障害(PTSD)になっても仕事を続けることは可能です。しかし、仕事中のトラウマ体験がきっかけとなっていたり、体験を思い出させるような場面に頻繁に遭遇したりする場合、フラッシュバックなどで仕事が手につかないことがあるので、症状によっては休職が必要となります。