強迫性障害に伴うつらい症状は、認知行動療法により治せる可能性があります。
思考にアプローチするため根本改善を目指せる治療法となりますが、中には聞き覚えがなく治療に対して不安を抱く方もいるはずです。
そこで今回は、認知行動療法を用いるメリットや治すコツについて解説します。治療がうまくいかない場合に考えられるポイントも含めてお伝えするので、ぜひ参考にしてみてください。
このコラムの監修医師
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。
私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
目次
強迫性障害の治療で用いられる認知行動療法とは
認知行動療法とは、認知に働きかけることで物の捉え方を柔軟にし、つらさを軽減していく治療法です。
例えば、失敗に対する過度の恐れから脅迫行為を繰り返している場合、そう思ってしまう背景を整理したり、間違った認識を少しずつ修正したりします。また、脅迫行為から生まれる安心感に依存している場合は、あえて行動したい欲求を抑え、脅迫行為をしなくても悪いことは起こらないという実体験を増やしていきます。
認知行動療法を通して思考回路を変えていくことで、
「失敗しても大きな問題は起こらない」
「心配する必要がない」
と前向きに考えられるようになり、徐々に症状が改善されるのです。
認知行動療法は精神疾患の治療で幅広く使われている
認知行動療法は、精神的負担につながる思考そのものにアプローチする治療法のため、精神疾患の治療において幅広く使われています。
例えば、うつ病では否定的な思考を修正したり、不安障害では過度な不安に対する認知を変えたりすることで、心身にかかっているストレスが軽減されます。
また、患者自身が抱える感情を適切に扱えるようになるので、長期的な改善が期待できることが特徴です。
その他の精神疾患や治療法について知りたい方は、下記記事をご確認ください。
強迫性障害の治療に認知行動療法を用いるメリット
強迫性障害の治療に認知行動療法を用いることで得られる主なメリットとしては、「副作用の少なさ」「高い再発予防効果」の2つがあげられます。
認知行動療法は、治療を続けやすく身体的負担を減らせる選択肢となるので、2つのメリットについてみていきましょう。
強迫性障害の治療に認知行動療法を用いるメリット①副作用がほとんどない
薬物療法の場合、薬の成分を体内に届けることで症状の緩和を目指すため、体調や体質によっては副作用が生じる可能性があります。一方、認知行動療法は患者の思考や行動に直接働きかけるため、副作用の心配がないことが特徴です。
認知行動療法の中でも、あえて強迫的な思考に直面させる治療の場合、治療初期は精神的な苦痛が伴う可能性がありますが、治療を繰り返すことで徐々につらさは収まり改善に向けて前向きに考えられるようになります。
強迫性障害の治療に認知行動療法を用いるメリット②高い再発予防効果が期待できる
思考そのものを変えていくため、強迫性障害に対する治療として高い再発予防効果を持つといわれています。また、自身の行動パターンに対する理解や対策法を知れるので、再発の兆候が出た際でも正しい自己管理ができるようです。
治療を通して適切な対応方法を身に付けられることは、治療後の生活で症状をコントロールしやすくなるというメリットにつながります。
強迫性障害の症状や診断基準について詳しく知りたい方は、下記記事をご確認ください。
強迫性障害の治療で用いる認知行動療法「暴露反応妨害療法」とは
強迫性障害の治療では、主に認知行動療法の「暴露反応妨害療法」が用いられます。
暴露反応妨害療法とは、患者が不安を引き起こす状況を意図的に作り出し、脅迫行為をしない状況に慣れさせる治療法です。
不安の種をあえて解消しないことで、「何もしなくても悪いことは起きない」「時間が経てば不安な気持ちは減っていく」という思考を身に付けられるため、不安に対する耐性が高まります。
参考文献
・強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル (治療者用)|中谷 江利子(九州大学)、加藤 奈子、中川彰子(千葉大学)
暴露反応妨害療法のやり方
認知行動療法の一種である暴露反応妨害療法は、以下のやり方で行われます。
- ①不安を引き起こす状況の特定
強迫行動を引き起こす不安や恐怖を感じる状況を特定します。が荒れるほど手洗いを繰り返してしまう - ②曝露の段階設定
不安の強さに応じて、曝露する状況を段階的に設定します。最も軽い不安から始め、徐々に強い不安を引き起こす状況へと進みます。 - ③曝露と反応妨害
設定した不安を引き起こす状況に意図的に曝露し、その後脅迫行動を行わないようにします。 - ④不安の管理
脅迫行動を行わずとも不安が減少することを体験し、「何もしなくても不安は自然に減る」という認識を身に付けます。 - ⑤繰り返し練習
曝露と反応妨害を繰り返し行うことで、不安に対する耐性を高め、強迫行動を減らしていきます。
強迫性障害の認知行動療法がうまくいかない場合に考えられること
強迫性障害に有効とされる認知行動療法ですが、診断方法に問題があったり治療を前向きに考えられていなかったりすると、思うような結果が出ないことがあります。
以下では、うまくいかない場合に考えられる5つの要因について解説します。
強迫性障害を発症していない
強迫性障害を含む精神障害は、症状の個人差が大きく日によって体調が変動しやすいため、実際には強迫性障害を発症していなくても、症状が強迫性障害によるものと勘違いしまうことがあります。
回復を目指す際は、疾患に合う治療を受けることが大切なので、なるべく診断を確定させた上で適切な治療を優先すると良いです。
認知行動療法が合わない
強迫性障害で間違いないがうまくいかない場合、認知行動療法が適切でない症状の可能性があります。
例えば、手を動かす行為をしっくりくるまで続けてしまう症状は、脅迫行為のもととなる不安の原因や仕組みが分からないため、不安自体を解消して改善を目指す認知行動療法は合わないようです。
このような症状がみられる際は、症状に対して新しい儀式を身に付けることで改善を図れるので、治療の変更を検討しましょう。(例:手を動かす体操を行うようにするなど)
認知行動療法の暴露が足りていない
認知行動療法の暴露反応妨害療法を行う際、完全な暴露ができていないと治療効果が得られにくいといわれています。
例えば、ドアノブは汚くないと認識させようしている場合、
「治療だから大丈夫だ」
「ドアノブに触れた後に何か触らないようにしよう」
など、苦痛を軽減するための条件を作っていると、不安に耐えられる力が不十分になり効果が現れにくくなります。
治療の際は、不安をそのまま感じられるようにするためにも、嫌悪感を回避しようとせずしっかり向き合うことが大切です。
メンタルチェッキングをしている
メンタルチェッキングとは、頭の中で確認する動作のことです。
例えば、頭の中で何度も繰り返し大丈夫だと言い聞かせていたり、確認済みだと何度も考えたりしている場合、メンタルチェッキングに該当します。
行動としては我慢できていても、脳内で考え続けることは脅迫行為と同様の反応を引き起こすため、正しい治療効果が得られにくくなります。
治療に対して後ろ向きである
「認知行動療法をしても治るか分からず不安」「症状を引き起こすのが怖い」など治療に対して後ろ向きだと、認知行動療法はうまくいかないと考えられています。
強迫性障害の治療において、本人の積極的な参加意欲は大切な要素です。治療に対して前向きに考えられない場合、無理して頑張り過ぎる必要はありませんが、少しずつ自分ができそうなステップから始めてみると良いです。
強迫性障害を認知行動療法で治すコツ
強迫性障害を認知行動療法で治す際は、薬物療法と並行したり簡単な動作から始めたりしながら治療をすすめることで、より効率的な改善が期待できるようです。
以下では、治すためのコツをお伝えするので、症状を改善して過ごしやすくするためにも参考にしてみてください。
強迫性障害を認知行動療法で治すコツ①薬物療法と並行して治療を受ける
認知行動療法と薬物療法を併用することで、より効果的に症状改善できるといわれています。
認知行動療法は思考や行動の改善、薬物療法は神経伝達物質のバランス調整などには効果的です。2つの治療により、精神面を調整しながら根本的な思考へのアプローチが叶うので、治療効果の向上を目指せるようです。
強迫性障害を認知行動療法で治すコツ②最初は簡単な動作から始める
認知行動療法を開始する際、最初から複雑で難しい課題に取り組むのではなく、簡単で達成可能な動作から始めることが大切です。
いきなり重い症状の改善を目指してしまうと、苦痛に耐えきれず治療に対して後ろ向きになってしまう恐れがあります。
軽度の不安から徐々に暴露し成功体験を重ねていくと、自信がうまれて治療に対して前向きになれるため、急がず、焦らず、段階的に進めていくと良いです。
強迫性障害を認知行動療法で治すコツ③苦痛が伴うことを理解しておく
治療では、わざと強迫観念を引き起こす状況に身を置くことで、少しずつ不安に耐える力を養います。最初は強い苦痛を感じるかもしれませんが、治すうえで大切なプロセスとなるので治療前に理解しておくことが大切です。
治療の経過に伴い苦痛は改善されるので、「一時的な苦痛は回復へのステップ」と踏まえたうえで治療に挑むと良いでしょう。
新宿うるおいこころのクリニックでは認知行動療法による強迫性障害の治療に対応しています
認知行動療法は、思考や行動に働きかける治療法であり、強迫性障害を改善するうえで効果的といわれています。
思考そのものにアプローチできるため根本改善が期待できますが、治療に対して後ろ向きだったり暴露が不十分だったりすると、うまくいかない可能性もあります。
治療を受ける際は、症状と向き合い少しずつ不安に耐えることが大切なので、段階を踏みながら自分のペースで続けてみましょう。
新宿うるおいこころのクリニックでは、認知行動療法による強迫性障害の治療に対応しています。経験豊富な医師が、薬物療法や認知行動療法を組み合わせた治療提案をすることで、1人ひとりに合わせた症状改善を目指せます。
ご予約は公式HPやLINEから24時間承っておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
認知行動療法以外で強迫性障害を気にしない方法はありますか?
強迫性障害の症状を日常生活の中で気にかけない方法としては、呼吸法やマインドフルネスの実践が効果的とされています。体を落ち着かせることで冷静に判断できるようになり、一時的に症状から解放されるようです。
強迫性障害か知りたい場合はどうすればいいですか?
強迫性障害を確認するためには、精神科・心療内科に受診して診断を受けることが大切です。強迫性障害に伴う他の精神疾患に気付くきっかけにもなるので、何らかの症状でお悩みの場合は精神科・心療内科への相談がおすすめです。