強い恐怖から何度も同じ行為をしてしまう強迫性障害。
放置すると症状は徐々に酷くなり、普段通りの日常生活が送れなくなります。
始めは小さな不快感でも、いつのまにか強い脅迫行為に発展しているので、違和感は早めに気付いておくと良いです。この記事では、強迫性障害の症状が悪化する理由や気にしないためにできること、病院での治療法について、少しでも早く治すコツを含めて解説します。
このコラムの監修医師
新宿うるおいこころのクリニック 院長
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。 私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
目次
強迫性障害になると、症状により生活に支障をきたす
強迫性障害は、強い不安やこだわりから特定の行動を何度も繰り返してしまう精神疾患です。
症状は自身では制御が難しく、日常生活や仕事、対人関係で支障が出ることがあります。例えば、手洗いや戸締りの確認などの行為によって遅刻を繰り返したり、不条理な考えで相手を信用できなくなったりなど影響はさまざまです。
このような症状が続くことで、人間関係が悪化し、他人とのコミュニケーションを避けるようになるケースもあります。場合によっては他の精神疾患の併発もみられることがあり、放置すると治療の長期化につながるようです。
強迫性障害患者の約20~30%はうつ病を併存している
強迫性障害の症状により、緊張・疲労状態が続くため、抑うつ状態になりやすいといわれています。実際、強迫性障害の患者の約20~30%はうつ病を併存しており、生涯有病率は50%と高いです。
うつ病を併発することで、恐怖や不快感が強くなったり、ストレス耐性が弱くなったりして、強迫性障害自体も悪化します。また、悪化によるアルコール依存や自殺企図の出現割合が高く、不安障害やパーソナリティ障害、トゥレット症候群、摂食障害なども併存しやすいといわれています。
参考
・強迫性障害の臨床像・治療・予後 ―難治例の判定,特徴,そして対応―|松永 寿人
強迫性障害と並行してチック症の症状が出ることもある
チック症とは、瞬きや首振り、寄声などの行動が意に反して突然起こってしまう病気です。
チック症と強迫性障害は併発率が高く、発症しているときは「自分の中でしっくりするまで行動をしたくなる」といった感覚がみられることがあります。
<行動例>
- 自分の中で決めたリズムに合わせて話始めないと、中々言葉が出ない
- 歩いているときにしっくりくるまで何度も足をける
- ドアの開け方が気にいらないと気が済むまで何度も繰り返す
- 本の高さや物の配置が揃っていないと気が済まない
下記記事では強迫性障害のチェック方法を紹介しています。併せてチェックしてみてください。
参考
チック障害との関連によるOCDの検討|金生 由紀子(東京大学医学部附属病院心の発達診療部)
強迫性障害の症状が悪化する理由
脅迫性障害は、脅迫行為をすることで一時的に不安や恐怖が和らぐため、強迫観念が出るたびに脅迫行為を繰り返すようになってしまい、脅迫性障害の症状が悪化すると考えられています。
ちなみに、ここで言う強迫行為とは、「相手に危害を加えることを伝えるような行為」ではなく、脅迫観念により、無意味な行為だと分かっていながら、何度もくり返さざるをえない行為のことです。
また、認知のズレや思考の正当化も関係しているようなので、詳しい理由をみていきましょう。
強迫性障害の症状が悪化する理由①不安をかき消したいから
脅迫観念が生じたとき、脅迫行為を行うことで一時的に不安が和らぎます。一度安心感を知ると、不安が出るたびに脅迫行為を繰り返すようになってしまいます。
しかし、脅迫行為による安心感はあくまで一時的なものであり、最初は小さな行動だったものが、次第に多くの時間を要する複雑な症状となるのです。
強迫性障害の患者は、行動や思考自体に意味がないことを理解していますが、訪れる不安には勝てず脅迫行為を続けてしまいます。行動の習慣化によりさらなる症状の悪化を招き、深刻な悪循環に陥るといわれています。
強迫性障害の症状が悪化する理由②安全だと認識した空間やルールに囚われるから
特定の行為やルールを守ることで得られる安心感に執着し、より厳格なルールを設けて自分を安心させようとする傾向があります。
そのため、自らにより厳しい制約を課したり、家族に対して何度も同じことを確認したりするなど、日常生活全般に支障があらわれます。
<症状例>
- 朝起きてから家を出るまでの行動を決めておくことで安心できる
- 手洗いの手順を徹底することで細菌を防いだ安心感が得られる
- 家族に何度も確認することで「大丈夫」という保証を得る
強迫性障害の症状が悪化する理由③強い恐怖により行動を正当化しだすから
強い恐怖や刺激を受けやすくなることで、脅迫行為や他者への確認などの行動は、仕方ないものだと正当化しだす傾向にあります。正当化により「やっても問題ない」と脳が認識するため、症状の悪化につながるようです。
<症状例>
- ガス栓を何度も確認したことで、火事が起きなかったと考える
- 「戸締りはしたか」という周囲への確認行為をしたことで泥棒を防げたと考える
- 何十回も確認行為をしたことで、失敗を防げたと考える
強迫性障害の原因やきっかけについては下記記事をご覧ください。
強迫性障害の症状を気にしない方法
ここでは、強迫性障害の症状を気にしない方法をご紹介します。
自分の考えを理解したりリフレッシュしてみたりすることで、心の負担が軽減するかもしれないので、できるものから実際に試してみましょう。
強迫性障害の症状を気にしない方法①自身の思考回路を理解する
まずは、症状に至るまでの思考や行動パターンを理解しましょう。強迫性障害では、非合理的な考えや通常では起こり得ない恐怖感情により、強迫的な行動が引き起こされています。
不安要因を理解しておくと、「○○をしなければ悪いことが起こる」という思考が事実ではないことに気付くきっかけになるでしょう。また、強迫行為に至るまでのプロセスを知ることで、「この行動や思考は不安から起こっているんだ」と冷静に判断し対処できるようになります。
強迫性障害の症状を気にしない方法②脳を休めてリフレッシュさせる
日常的に強迫行為がみられる場合、脳は常に緊張状態になっており、うつ病や睡眠障害などを併発するリスクを高めます。また、ストレスがかかり続けると正常な判断ができなくなるため、思考がさらに混乱するようです。
リフレッシュにより緊張状態が和らぎ、冷静に物事を判断するきっかけを作れるので、ヨガや入浴、瞑想などを取り入れてみましょう。また、軽い運動やストレッチもリフレッシュ効果が期待できるので、気分転換をしたい際にオススメです。
強迫性障害の症状を気にしない方法③家に引きこもらず外出してみる
外に出て新しい体験をしたり、他の人とコミュニケーションを取ったりすることは、特定の思考から脳を解放するきっかけになります。不安や恐怖感から引きこもりがちになる方も多いですが、1日1時間でも外に出てリフレッシュさせると良いです。
外に出るのがどうしても辛い場合、無理をする必要はありませんが、できる範囲で少しずつ前に進んでみましょう。
強迫性障害の症状に悩んだら早めに精神科・心療内科へ相談
強迫性障害の症状に悩んでいる場合は、早めに精神科・心療内科へ相談することが大切です。病院へ行かず放置した場合、症状が深刻化して日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
症状によっては、他の精神疾患を併発している可能性もあり、適切な治療を受けないことで治りづらくなっていきます。すぐ受診することで、日常生活への影響や不調を最小限に抑えられるので、異変に気付いたタイミングで相談するようにしましょう。
病院での強迫性障害の治し方
強迫性障害の治療法としては、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を用いた薬物療法や暴露反応妨害法などの心理療法が一般的です。治療は組み合わせて行うことも多く、併用により治療効果が高まるようです。
また、睡眠障害や不安感といった不調がみられる場合は、個々の症状に合わせた治療提案も行われます。心身不調を総合的に治すことが回復につながるので、検査を通して自身の健康状態を把握し適切な治療を受けると良いです。
セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、セロトニンの再取り込みを抑制することで、シナプス間のセロトニン濃度を調整する薬です。服用を続けることで不安感が改善され、脅迫行為につながる不合理な考えが減るようです。
SSRIは即効性に欠けるため、効果を感じるには根気強く続けることが大切です。治療を途中で投げ出す人もいますが、いきなり服用を中止すると離脱症状が生じる可能性があるので、医師の指示に従いながら慎重に行いましょう。
暴露反応妨害法
暴露反応妨害法とは、不安を感じる状況にあえて身を置き、不安を克服していく心理療法です。
(例)床が汚いという思考から手を洗い続ける強迫行為がみられる場合
- あえて床に手をつける
- 手を洗いたいという衝動を感じても我慢するように指示
- 上記の行動を繰り返し、徐々に汚れに慣れていく
このように、症状を引き起こす状況を繰り返し体験することで、特定の不安に対する耐性向上が期待できます。
参考
強迫症者に対して暴露反応妨害法及び行動実験を使 い分けることが有効であった一例|矢野, 宏之、黒木 俊秀
強迫性障害の症状を少しでも早く治すコツ
強迫性障害の症状を少しでも早く治すためには、治療を途中でやめないことが大切です。
治療は長引く傾向にありますが、「どうせ治らない」といって諦めるのではなく、まずは治療を続けてみましょう。また、治療中に1人では解決できない不安やストレスが生じた場合は、周囲に協力を求めることで心の負担軽減になります。
そのほかにも、治療の目的を明確にすることもオススメです。例えば、「回復したら友人に会える」「旅行に行ける」など、具体的な目標を持つことで治療のモチベーションが高まるでしょう。
強迫性障害の症状でお悩みの方は、新宿うるおいこころのクリニックへご相談ください
今回は、強迫性障害の症状が悪化する理由や気にしないためにできること、病院での治療法について解説しました。
最初は小さな症状でも、脅迫行為により安心感を得ることで徐々に悪化し、うつ病に発展したり社会生活が送れなくなったりするリスクが高まります。
少しでも症状を抑えるためには、定期的なリフレッシュ思考回路の整理が大切となるので、無理のない範囲で取り入れてみましょう。
新宿うるおいこころのクリニックでは、強迫性障害の診断・治療に対応しています。
経験豊富な専門医が、症状に寄り添う治療提案をすることで、1人ひとりに合わせた症状改善を目指せます。治療では自由診療もご用意しているため、「投薬を控えたい」「通院負担を減らしたい」などのご要望にもできる限り対応いたします。
臨床心理士、公認心理士在籍のカウンセリングもございますので、皆様のご来院を心よりお待ちしております。
<新宿うるおいこころのクリニックで行う強迫性障害の治療についてはこちら>
よくある質問
強迫性障害の症状を抱える人は頭がいいと言われることがありますが本当ですか?
強迫性障害を抱える人々=頭が良いという医学的根拠はありません。頭がいいといわれる理由は、「こだわりが強い」「几帳面」といった特性からきていると考えられています。
強迫性障害を気にしない方法はありますか?
強迫性障害を気にしないためには、外出してリフレッシュしたり脳を休めたりすることが大切です。趣味の時間や休息をとることで、脳の緊張状態が和らぎ症状が落ち着くといわれています。