うつ病のことを、日本精神神経学会は、つらさの程度が半端ではない病気であり、ときに「もう生きていたくない」など極端に悲観的な考えに陥る病気、と説明しています(*1、2)。
うつ病は重大な病気ですが、まだ誤解されているところもあります。誤解は治療へのアクセスを妨害することがあるので、まずはこの病気を知ることが大切です。
そこでこの記事では、うつ病の症状、原因、治療法、予防法などについて解説します。
*1:https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=32
*2:https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=3
日本精神神経学会
目次
うつ病とはどのような病気なのか、なぜ誤解されるのか
まずは、うつ病という病気をどのようにとらえたらよいのか考えてみます。うつ病とはどのような病気で、なぜ誤解されることがあるのでしょうか。
「弱いからかかる」「憂うつの延長」は誤解
大学共同利用機関法人人間文化研究機構「国立国語研究所」は、世間はうつ病について、次のような誤解をしていると指摘しています。(*3)
■このような理解は誤解です
- うつ病は、精神的に弱いためにかかる病気である
- うつ病とは、失恋や仕事の失敗など、普通に経験する憂うつな気持ちの延長である
- うつ病は、気分的な問題である
- うつ病は、気の持ちようで治る
国立国語研究所はさらに、うつ病のことを「心の風邪」と呼ぶことについて、「誰でもかかるよくある病気」という意味で用いられることは問題ないが、「軽い病気」「すぐに治る」と誤解させる言葉であるともいっています。もし、うつ病患者さんの周囲がこのような誤解をしていたら、患者さんは症状のつらさに加えて、つらさを理解してもらえないことにも耐えなければなりません。
*3:うつ病(びょう)
国立国語研究所
うつ病の定義
うつ病の定義を紹介します。
厚生労働省は次のように定義しています(*4)。
■厚生労働省のうつ病の定義
「うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態」
ここから、うつ病が脳の病気であることがわかります。
冒頭で紹介した日本精神神経学会は、次のように定義しています。
■日本精神神経学会のうつ病の定義(*1、2)
- 憂うつ感という心理が非常に強くなり、しかも何週間にもわたって長引く病気
- いつ誰がかかってもおかしくない一般的かつ人間的な病気
- 症状の多くは、憂うつや無気力など誰でも理解できるものだが、つらさの程度が半端ではなく、社会生活を営みにくくなる病気
- ときに「もう生きていたくない」といったように、極端に悲観的な考えに陥る、大変苦しい病気
こちらの定義はとても生々しく、この病気の深刻さを伝えています。
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
うつ病の症状と悲惨な結果
うつ病の症状を解説します。また、うつ病がもたらす悲惨な結果も紹介します。
落ち込む、楽しめない、眠れない
うつ病は、次のような症状を引き起こします(*4)。
■うつ病の代表的な症状
- 1日中気分が落ち込んでいる
- 何をしても楽しめない
- 眠れない
- 食欲がない
- 疲れやすい
- 脳がうまく働かない
- ものの見方が否定的になる
- 原因と思われる問題を解決しても気分が回復しない
- 日常生活に大きな支障が出る
- 死んでしまいたいほどのつらい気持ちが現れる
うつ病と自殺は関連性が高く、厚生労働省にかつて「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」が存在していたほどです(*5)。
*5:自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて
厚生労働省
激務からうつ病を発症し自殺を企図した事例
日本精神神経学会は、うつ病の悲惨な事例として、ビジネスパーソンが激務からうつ病を発症し、自殺を企図した事例を紹介しています(*2)。
金融機関に勤めていた37歳の男性は、残業が深夜に及ぶ激務が続いたことから、うつ病を発症。休みを取って医療機関にかかり、抗うつ薬を飲むなどの治療を受けた結果、3カ月で回復しましたが、しばらくするとまた激務が始まり、1年後に再発してしまいました。
その後も回復と再発を繰り返し、離婚したことなどで自殺を企図。
入院治療とリハビリを受けたことで社会復帰を果たし、再婚もしました。ただその後も治療は継続しました。
うつ病の最悪の症状は自殺の企図や自殺といえます。自治体の保健当局も、うつ病と自殺については強く警戒しています(*6、7)。
*6:うつ病について
*7:うつ病と自殺について 「自殺のサイン・自殺防止のための診断基準」
東京都保健医療局
うつ病の前兆
うつ病の前兆となる症状を知っておくことは重要です(*4)。
前兆を知っておけば、自分で「うつ病かもしれない」と気づくことができますし、周囲の人に前兆がみられたら対応することができます。
■うつ病の前兆
- 表情が暗い
- 自分を責める
- 涙もろくなる
- 反応が遅い
- 落ち着かない
- 飲酒量が増える
- 食欲がない
- 性欲がない
- 睡眠障害(眠れない、または、過度に眠ってしまう)
- 体がだるい、疲れやすい
- 頭痛、肩こり
- 動悸
- 胃の不快感
- 便秘や下痢
- めまい
- 口が渇く
精神面、行動、活動、睡眠、全身、心臓、胃、腸、脳、口と、前兆はあらゆるところに現れることがわかります。
うつ病の原因
うつ病の原因は正確にはわかっていないのですが、脳が関与していることは明らかなようです。
正確にはわかっていないが、脳の不調が関与している
うつ病の原因については、「脳の働きに不調が生じていることで発症する」「脳のエネルギーが欠乏することで生じる」「脳のシステム全体のトラブルによって生じる」と説明されることがあります(*4、8)。
脳内の神経細胞が機能せず情報伝達がうまくいかないことで、うつ病が生じていると考えられています。
*8:うつ病とは
こころの耳
ストレスのあとに起きる
そして、うつ病は精神的、身体的ストレスが増えたあとに発症することがわかっています。そういった意味では、ストレスをうつ病の原因とみなすこともできます。
うつ病につながる精神的、身体的ストレスには次のものがあります(*4)。
■うつ病につながる精神的、身体的ストレス
- つらい体験
- 悲しい出来事
- 結婚
- 進学
- 就職
- 引っ越し
- 妊娠、出産
- 更年期
うつ病の治療法
うつ病疑いのある人が精神科や心療内科などにかかり、医師がうつ病と診断すると治療が始まります。
厚生労働省はうつ病の治療法として、1)休養、2)薬物療法、3)精神療法・カウンセリング、の3つを紹介しています(*9)。
*9:うつ病の治療と予後
こころの耳
休養
休養は、使いすぎた脳を休ませるために必要になります。ビジネスパーソンのうつ病患者さんの場合は、仕事を完全に休んでしまう以外に、業務量を減らしたり、残業をしなかったりすることも有効とされています。
また、患者さんのなかには仕事を休んで自宅にいると落ち着かない気持ちになる人もいて、その状態は十分休めないので、軽症のうつ病であっても入院することもあります。
薬物療法
うつ病が脳内の神経細胞の異常で生じている可能性があることから、神経細胞などに働きかける薬を使う薬物療法も有効とされています。
うつ病の治療薬でよく使われるのは、抗うつ薬です。抗うつ薬によって、神経細胞内にあるセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きが正常化します。
精神療法・カウンセリング
同じ強さのストレスを受けても、うつ病を発症する人と発症しない人がいることから、うつ病患者さんの性格や考え方が病気に関わっていると考えられます。
そこで、精神療法やカウンセリングもうつ病治療で用いられます。
精神療法のうち認知行動療法は、感情や行動に影響を及ぼしている極端な考え(=歪んだ認知)を特定し、それを修正していきます。
より高度な治療法
日本うつ病学会は治療ガイドラインをつくっていて、ここには上記の3つの治療法以外の治療法も紹介されています(*10)。
■入院治療
うつ病治療は外来でも可能ですが、重症化すると入院治療が必要になります。同治療ガイドラインでは、次の3条件に1つでも当てはまる場合、入院治療を考慮すべきとしています。
入院治療を考慮すべき3つの条件(1つでも該当すれば適応)
- 自殺企図や切迫した自殺念慮がある
- 家庭環境が療養や休息に適さない
- 病状が急速に進行することが想定される
■心理教育
同治療ガイドラインはさらに、心理教育も必要であると指摘しています。
うつ病患者さんのなかには「医療は役立たない」と思っている人がいて、そのような方の治療では、まずは治療者と良好な関係をつくっていく必要があります。
そのうえで患者さんに、うつ病とはどのような病気であるかといったことや、どのような治療が必要になるかといったことを理解してもらい、薬物療法や精神療法・カウンセリング、入院治療などを行います。
日本うつ病学会は「うつ病診療では、治療者と患者さんとの関係形成がとりわけ重要である」としています。
*10:日本うつ病学会治療ガイドライン
日本うつ病学会
完璧な治療法はない?
うつ病に脳が関与していることは確実なようですが、正確な原因はまだ解明されていません。
そのため、「うつ病の治療法はまだ完璧ではないかもしれない」と指摘する研究者もいます(*2)。これが意味することは、有効な治療法は存在するが、完治が難しい場合がある、ということになるでしょう。
同様のことは日本うつ病学会も指摘していて、治療ガイドラインで「入院が自傷・自殺の完全な予防策ではないことなど、医療の限界を含めてあらかじめ十分、本人・家族に説明する必要がある」と説明しています。
うつ病はこれほど難しい病気であるため、予防が重要になってきます。
うつ病の予防法と周囲の支え
うつ病では予防の効果が期待できます。
先ほど、うつ病の前兆に睡眠障害(眠れない、または、過度に眠ってしまう)があることを紹介しました。日本うつ病学会は、睡眠障害を治すことは、うつ病予防になると指摘しています(*10)。
また、ストレスのあとにうつ病が発症するケースが多いことから、日頃から心への負担を軽減していくことも大切です。
そして周囲の人のケアも重要です。家族、友人、同僚や上司などがうつ病の前兆をみつけたら、支えてあげるとよいでしょう。
支える方法には、話を聴く、相談を受ける、長時間労働を是正する、ハラスメントに対処する、といったものがあります(*11)。
*11:ご家族にできること
こころの耳
まとめ~医療を頼ってください
記事の内容を箇条書きでまとめます。
- うつ病とは、つらさの程度が半端ではなく、極端に悲観的な考えに陥ることがある病気
- それなのに、気の持ちようで治るはずといった誤解がある
- うつ病の症状には、落ち込む、楽しめない、眠れないなどがある
- うつ病の悲惨な結果は自殺の企図、または自殺である
- うつ病の原因は、脳の働きが関与しているとみられるが、正確なところはわかっていない
- うつ病の治療法には、休養、薬、精神療法、カウンセリング、入院などがあるが、「完璧な治療法」はないと指摘する専門家もいる
- そのため、うつ病では予防が大切になる
うつ病は深刻な病気ですが、効果が期待できる治療がある病気でもあります。「おかしいな」と感じたら、無理せず医療を頼りにしてください。