「発達障害の言葉の意味は何となく分かるが、それぞれの違いは分からない」
と、発達障害についてあまり理解をしておらず、いくつかの種類を聞いても何のことか分かっていない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、発達障害の1つである「アスペルガー症候群」についてご紹介します。よく耳にするASD(自閉スペクトラム症)との関係性や特徴、困難あるあるを解説しているのでぜひ参考にしてみてください。
このコラムの監修医師
新宿うるおいこころのクリニック 院長
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。 私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
目次
アスペルガー症候群はASD(自閉スペクトラム症)のこと
アスペルガー症候群は、ASD(自閉スペクトラム症)の1つとして位置づけられている発達障害です。
以前は、特性ごとに自閉症や広汎性発達障害と区別されていましたが、2013年以降はASD(自閉スペクトラム症)としてまとめて呼ばれるようになりました。
そのため、現在では「アスペルガー症候群」は正式な診断名として扱われていませんが、会話の中などで旧診断名が登場する場面もあります。
アスペルガー症候群の発見が遅れるケースも
アスペルガー症候群は、幼少期には行動が単なる個性だと誤解されやすく、症状を見逃す傾向にあるといわれています。
生まれつきの脳の機能障害であるため、後天的に発症することはありませんが、大人になってから生じた問題を通じて発覚するケースもあります。
また、自身の特性に気付かないままでいると、成長する中でストレスや不安を抱えやすくなり、他の精神疾患の併発につながるようです。
アスペルガー症候群の症状は個人差が大きい
アスペルガー症候群の症状は、個人差が大きいといわれています。
例えば、症状として強いこだわりがあげられますが、興味関心のある分野にのみ集中できたり、物が同じ場所にないと落ち着かなかったりと特性の現れ方は人によって異なります。
そのほかにも、人前で話すこと自体が苦手な人もいれば、一方的に話し続けてしまう特性を持っている人も存在するので、個々に合わせた支援を受けることが大切です。
また、ASD(自閉症スペクトラム)の特徴については下記記事でまとめていますので、併せてごらんください。
参考
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|e-ヘルスネット(厚生労働省)
アスペルガー症候群と発達障害の違い
アスペルガー症候群と発達障害の違いは、単語が示す範囲の広さです。
発達障害とは、脳の機能異常が関係して生じる先天性の疾患の総称のことです。アスペルガー症候群は、発達障害という大きな枠組みの中に存在する疾患であり、ADHDや学習障害、知的障害も発達障害に分類されます。
簡単にまとめると、「発達障害=アスペルガー症候群やADHDなどの疾患をひとまとめにした言葉」です。
発達障害にはアスペルガーと断定できないグレーゾーンも存在
グレーゾーンは発達障害の傾向はあるものの、診断基準を満たすほどの症状がない場合に用いられます。正確な診断名ではないですが、グレーゾーンで悩まされている人は多いと考えられています。
例えば、
「こだわりは強いが社交的なスキルは正常」
「感情表現が乏しいが多動はみられない」
など一部の診断基準を満たしていない事例があげられ、一見問題がないように感じることが特徴です。
発達障害とは
先ほども説明したように、発達障害とは脳機能の発達が関係して起こる障害のことです。発達障害に分類される疾患は、主に
「自閉症スペクトラム障害(ASD)」
「注意欠陥多動性障害(ADHD)」
「学習障害(LD)」
の3つで、そのほかにも運動性チック症状や吃音も該当します。
アスペルガー症候群の特徴
ここでは、アスペルガー症候群の代表的な5つの特徴について解説します。
アスペルガー症候群の特徴①一つの事柄を長々と話す
話す際は細かい部分を必要以上に気にかけていることが多く、自身が興味を持った内容や、お気に入りの話題について長々と話す傾向にあります。
言葉自体は、一般的な子どもと同じ時期に話し始めるようですが、
「同じ言葉を繰り返し使う」
「独自の言葉を用いる」
「代名詞を正しく使えない」
などの特徴がみられるといわれています。
アスペルガー症候群の特徴②顔の表情が変わらない
アスペルガー症候群の特徴の一つとして、顔の表情が変わりづらいという点があげられます。
恐怖や悲しみなど、突然強く感情が揺さぶられるシーンでは例外的に表情が変わることもありますが、普段のコミュニケーションでは表情が変わらないといわれています。
アスペルガー症候群の特徴③しっかり説明されないとルールが分からない
説明のないルールを理解・実行する能力が低いため、他者とのコミュニケーションで困難を起こしやすいといわれています。
例えば、一般的に自然と身に付く相手に合わせた柔軟な対応や人付き合いでの距離感などが分からず、相手を不快にさせたり傷付けたりすることがあるようです。
また、自身の問題を自覚している人もいますが、治そうとしても方法が間違っており中々上手くいかないことが特徴です。
アスペルガー症候群の特徴④特定分野にのみ、興味を持つ傾向にある
機械的記憶(暗記力)が優れている傾向にあり、ドラマの登場人物、時刻表、数字のパターンなど特定の分野に対して強い関心を持つことがあります。
他の事柄に対しては無関心なことも特徴で、時刻表に興味があっても実際にバスには乗らなかったり、ドラマの内容は興味がなかったりするようです。
アスペルガー症候群の特徴⑤学生生活でいじめを受けやすい
対人スキルでの問題や特性から付き合い辛いと思われることがあり、学校生活でいじめを受けやすいといわれています。
また、同級生が周りと楽しそうにしていても気に留めず、自分の興味に基づいて行動するため、青年期になると他の人と何かが違うと気付く傾向にあります。
参考
アスペルガー症候群:臨床知見(自閉症と発達障害研究の進歩Vol.4,pp.102-120,星和書店刊)|ローナ・ウィング、門 眞一郎(訳)
アスペルガー症候群の特徴により大人になってから起こる苦労
ここでは、アスペルガー症候群の特徴により、大人になってから起こり得る苦労について解説します。
暗黙の了解が分からず非難を受ける
「人の話は最後まで聞く」
「相手の嫌がることはしない」
など、社会生活を過ごす上では数々の暗黙の了解が存在します。先ほども説明したように、アスペルガー症候群の人は説明のないルールに対する理解が難しいため、意図せず相手を傷付けたり失礼な態度をとったりしてしまうことがあるといわれています。
相手が言っていることを理解できない
相手の発言が理解できない特性から、仕事でミスをしたり指示を聞き間違えたりと、業務に支障をきたすと考えられています。
また、冗談を真に受けてしまうことも多く、周囲との関係に影響を与えることもあるようです。
自分の感情を見失ってしまう
感情の表現や理解が苦手な傾向にあるため、自分の感情を把握できないことがあります。
イライラしている時やストレスを感じている時も同様で、気持ちを整理することが難しくなり、思考の混乱を招いたりふさぎ込んでしまったりするようです。
アスペルガー症候群を持つ人が困難に感じることあるある
アスペルガー症候群を持つ人は、家庭、恋愛、仕事の各場面で、以下でお伝えする特有の「困難あるある」に直面する傾向にあります。
家庭編「自分のルールを乱されるとイライラしてしまう」
強いこだわりが特性としてありますが、決めたルールが何らかのきっかけで乱されると大きなストレスを感じるようです。
例えば、
「朝起きてから出かけるまでの流れが決まっている」
「外出時に必ず通る道がある」
などのマイルールが存在し、守れないとパニックになることもあります。また、自身のリズムを崩されるイライラから、家族に八つ当たりをして関係悪化につながるともいわれています。
恋愛編「相手の気持ちに気付かず険悪になる」
相手が求めるサポートに気付けなかったり共感ができなかったりすることから、恋人と険悪な雰囲気になりやすいと考えられています。また、場の空気を読むのが難しい特性から無意識に相手を傷付けてしまい、相手の信頼を失うこともあるようです。
仕事編「人とのコミュニケーションが苦手で仕事が辛い」
自分の意見の言語化や、同僚との何気ない会話が苦手な傾向にあるため、周囲とコミュニケーションが上手く取れず辛いと感じるようです。
また、チームでの協力が求められる場面では、特性により協調できず
「意欲がない」
「適当にやっている」
と誤解されやすいといわれています。
また、下記記事ではASD(自閉スペクトラム症)の人が向いている仕事をまとめて紹介しています。ASD(自閉スペクトラム症)の特性や強みも解説していますので併せてごらんください。
アスペルガー症候群だと感じる場合は診断を受けるべきか
「アスペルガー症候群かもしれない」
「自分の特性により支障が出ている」
と感じる場合は、専門医による診断を受けると良いです。
診断を受けることで、適切なサポートを受けられたり特性による悩みが解決したりするかもしれません。また、症状への理解を深めるきっかけにつながり、日常生活や人間関係が円滑になるといわれています。
アスペルガー症候群の診断により他の発達障害に気付くことも
診断を受けることで、他の発達障害の併発に気付くことができるかもしれません。
例えば、特性によるストレスからうつ病や不安障害を発症している可能性がありますが、検査により症状との関連性を明らかにできるので、少しでも心当たりがある場合は相談してみると良いでしょう。
アスペルガー症候群の診断を受けたい際は精神科・心療内科に相談しよう
精神科・心療内科では、心理検査や問診を用いた専門的な検査を受けられます。
他の精神疾患を併発している場合でも、心の病気に対する治療に幅広く対応しているため、ぜひ、精神科・心療内科に相談してみてください。
また、下記記事では大人のASD(自閉症スペクトラム)の診断基準についてまとめていますので、併せてごらんください。
新宿うるおいこころのクリニックではアスペルガー症候群の相談に応じています
今回は、アスペルガー症候群の特徴や困難あるあるについて解説しました。
アスペルガー症候群は、ASD(自閉症スペクトラム症)の1つとして位置づけられている発達障害で、
「表情が変わらない」
「こだわりが強い」
「興味関心が限られる」
などの特徴があります。
先天性の特性ですが、大人になってから気付くこともあり、ストレスから他の精神疾患を併発している可能性もあるので、何らかの悩みを抱えている場合は早めにサポートを受けた方が良いでしょう。
「アスペルガー症候群かもしれない」とお悩みの方は、新宿うるおいこころのクリニックへご相談ください。
臨床心理士、公認心理士在籍のカウンセリングや、経験豊富な医師による詳しい検査により、特性を明確にした上で悩みに合わせたサポートを提供いたします。
他の精神疾患を併発している場合でも、症状に合わせたご提案が可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
<新宿うるおいこころのクリニックのASD(自閉症スペクトラム症)の治療はこちら>
よくある質問
人の気持ちが分からない人はアスペルガーですか?
人の気持ちが分からないといって、アスペルガー症候群であるとは限りません。
ただし、特性の1つとしてあげられる要素なので、
「人の気持ちが分からないことで周囲と上手くいっていない」
「職場の人間関係で悩みを抱えて眠れない」
と悩んでいる場合は相談してみると良いです。
アスペルガー症候群とASD(自閉スペクトラム症)の違いを教えてください
アスペルガー症候群とASD(自閉スペクトラム症)は同じものです。
2013年以降、アスペルガー症候群は正式な診断名ではなくなり、症状に当てはまる場合はASD(自閉スペクトラム症)に分類されるようになりました。大きくまとめると同じなので、アスペルガー症候群=ASD(自閉スペクトラム症)」と覚えておきましょう。
アスペルガー症候群とは?ASD(自閉スペクトラム症)との関係性や特徴とは
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