自閉スペクトラム症(ASD)は、大人の女性にもみられる先天性の発達障害です。
女性の場合は、男性に比べて気付きにくい傾向があり、社会に適応するために過剰な努力をしているケースもあります。
この記事では、大人の女性にみられる自閉スペクトラム症の特徴や症状について解説します。診断された方が使える支援も含めてご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
大人の女性にもみられる自閉スペクトラム症(ASD)とは
自閉スペクトラム症(ASD)は、強いこだわりや対人関係での困難がみられる発達障害です。
「Autism Spectrum Disorder」の頭文字をとってASDと略されており、大人になるにつれ症状が落ち着くケースと、社会生活を通して症状が露呈するケースが存在します。
また、重症度も人によって個人差が大きく、一見問題のない軽度の症状から他者との会話が難しい重度の症状まで幅広いです。
女性の方が自閉スペクトラム症(ASD)と気付かれにくい
女性は、症状をうまくカモフラージュできたり、社会への適応能力が高かったりするため、自閉傾向が低い場合は男性に比べて気付かれにくい傾向にあります。
また、診断自体も難しいといわれており、男性ほど十分な支援が受けられなかったり女性の自閉スペクトラム症(ASD)に対する研究データが少なかったりするようです。
参考
・わが国における自閉症スペクトラム障害の女性への支援に関する文献的考察|岩男 芙美(中村学園大学発達支援センター)
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性の特徴
特徴としては、対人関係で受け身、こだわりの対象が人や動物、思考が両極端といった傾向がみられるといわれています。
また、特性によるトラブルから不登校や引きこもりになったり、情緒に問題があると気分障害を併発したりする割合が高いようです。
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性の特徴①対人関係での困難が目立ちにくい
対人関係において困難を抱えていても、軽度の場合は周囲に合わせられることから、問題が目立ちにくく見逃されやすいといわれています。しかし、内面では無理をしているため、精神的な負担から疲れやストレスが蓄積されやすいようです。
特性により仲間外れにされた場合でも、本人も原因が分からないため、周囲に助けを求められず1人で抱えてしまうケースがあるようです。
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性の特徴②他人の観察が得意
男性に比べて、他人の観察が得意といわれています。
観察や模倣によって社会に馴染むスキルが身に付いていると考えられ、普通の人と同じような行動をとれたり、他者からの見られ方を意識できたりするようです。
しかし、スキルはあくまで表面的であり、実際には無理をしていることが多いため、疲労が溜まり限界を迎えてしまうケースも多いそうです。
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性の特徴③こだわりの対象が人や動物
男性は、好きなものや興味分野に対してこだわりを示しますが、女性の場合はこだわりの対象が人や動物であると考えられています。
強いこだわりは長所となる特性ですが、人間に対して度を越えて執着している場合は、相手のプライバシーを侵害したり、不適切な形で関わり続けようとしたりと、何らかのトラブルを起こす可能性があるようです。
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性の特徴④二次障害や併存症が多い
大人の自閉スペクトラム症を持つ女性は、二次障害や併存症を抱えることが多いとされています。
例えば、パニック障害や社交不安障害といった不安障害の併存率は50%と高いです。そのほかにも、自殺念慮の割合は11~66%、自殺企図は1~35%、自殺による死亡は0.31%といわれています。
摂食障害との関係性も示唆されており、研究データによると、拒食症をもつ女性の23.3%がASDの診断基準を満たしていたようです。
参考
・女性の自閉スペクトラム症の臨床的特徴と治療・支援のあり方|金井 智恵子(和洋女子大学人文学部こども発達学科)
・わが国における自閉症スペクトラム障害の女性への支援に関する文献的考察|岩男 芙美(中村学園大学発達支援センター)
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性が感じた特徴的なエピソード
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性は、日常生活や対人関係において
「他の人と考えが違う」
「周囲へ気配りができないと感じる」
といった経験をしているようです。
以下では、主な症状としてあげられる4つの特徴的なエピソードをご紹介します。
他の人と感覚がズレていた
友人との会話や会議中に、他の人と感覚がズレていると感じる経験が多いようです。
例えば、
「会議中に考えを述べても理解されず意見が合わない」
「友人付き合いに対する価値観が大きく違っていた」
などの経験をするといわれています。
感覚のズレは、幼少期や思春期の段階で自覚する傾向にあり、女性の場合は他人に合わせようと努力することが多いようです。しかし、いくら頑張っても感覚は変わらないため、自己否定感や自分が何者か分からない不安をもたらすとされています。
他者に対する興味がなかった
好きなものには夢中になれるが、他者に対して興味を持つことが難しいと感じている人が多いといわれています。
例えば、
「友人の個人的な話題に関心を抱けない」
「相手の気持ちを理解しようと思わない」
「共感を求められてもできない」
といった経験をするようです。
このような特性から他者との関係が深まらず、人との交流が乏しくなったり人間関係が希薄になったりするため、孤独感を抱きやすいといわれています。
また、他者に対して興味を持てないことを責められる、自分自身を責めるなどの経験から、負の感情を抱え込むことも多いようです。
自分の力不足だと思っていた
特性を自覚していない場合、繰り返されるトラブルが自分の力不足のせいだと感じ、自己評価が低くなるといわれています。
例えば、
「職場でのプロジェクトで成果を上げられない」
「家事が思うように進まない」
「コミュニケーションがうまくとれない」
といった問題に対して、自分が悪いと判断してしまうようです。
また、問題を改善しようとしても成果が出ないため、次第にやる気を失ったり自己否定に陥ったりするとされています。
周囲への気配りができない
共感や感情察知が難しい特性から、周囲への気配りができないと感じるようです。
例えば、
「社交的なイベントでお世辞を言えない」
「空気を読めず無神経な発言をしてしまう」
「感情を読み取ろうとすることで会話の反応が遅れる」
などの場面に遭遇するといわれています。
また、一番効率的だと考え行動したことが、世間の常識とはズレていたり相手を不快にさせたりすることも多いようです。このような経験が積み重なると、周囲との関係がうまくいかず自信低下につながると考えられています。
参考
・女性の自閉スペクトラム症の臨床的特徴と治療・支援のあり方|金井 智恵子(和洋女子大学人文学部こども発達学科)
・自閉症スペクトラム障害の女性は診断に至るまでどのように生きてきたのか:障害を見えにくくする要因と適応過程に焦点を当てて|砂川 芽吹(東京大学大学院教育学研究科)
大人の女性にみられる自閉スペクトラム症(ASD)の特徴に該当する場合は病院へ
自閉スペクトラム症の特徴に該当する場合や、生活に支障をきたしていると感じる場合は、精神科・心療内科に相談することがおすすめです。精神科・心療内科では、専門知識に基づく適切なサポートを受けられるため、特性により生じている悩みの軽減が期待できます。
また、診断を受けることで、困難の原因が「性格の問題」ではなく「ASDによる特性」にあるのだと納得できるかもしれません。心の負担が軽減されると、日常生活がより快適になり、自信を持って自分らしく過ごすことができるでしょう。
自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準
自閉スペクトラム症は、以下の3つの項目に当てはまるときに診断されます。
①コミュニケーションにおける困難がある
- アイコンタクトや顔の表情、身ぶりを使ったコミュニケーションが少ない
- 同年代の仲間と社会的関係を築きにくい
- 自分の興味のあるものを他者に手渡す、指さす、持ってきて見せるなどの行動が少ない
②意思を伝える上での困難がある
- 話言葉がない
- 会話に関する発達に遅れや偏りがある
- 同じような言葉を繰り返す
③行動・興味・活動が、限られていたり繰り返したりいつまでも変わらなかったりする
- 1つの物や行動、考えにこだわりがある
- 固定概念や思い込みに囚われている行動
- 自己刺激行動や自傷行動の頻発も③に含まれる
参考
・自閉症スペクトラム障害の発達と支援|山本 淳一、楠本 千枝子
大人の女性の自閉スペクトラム症(ASD)に対する支援
ここでは、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性が利用できる支援制度について解説します。
活用することで、日常生活で生じる困難に対するサポートを受けられるので、自分に合った支援を見つける参考にしてみてください。
大人の女性の自閉スペクトラム症(ASD)に対する支援①自立支援医療制度
自立支援医療制度とは、継続的な通院が必要な精神障害に対して、医療費の自己負担額軽減をする制度です。
活用により、治療の自己負担額は1割又は負担上限額になり、経済的な負担が大幅に軽減されます。負担軽減に伴い、必要な治療を受けやすくなったり、安定した治療環境を確保できたりするため、各自治体の手順に従って申請すると良いです。
大人の女性の自閉スペクトラム症(ASD)に対する支援②障害者総合支援法
障害者総合支援法とは、障害の有無に関わらず皆が生きやすい環境を作るための法律です。
法律により、相談体制の強化や就労定着のための支援、発達障害者支援センターの設置などが定められており、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性も様々な支援が受けられます。
障害者総合支援法では、個々のニーズに応じたサポートが提供されるため、社会的な孤立の防止や生活の質向上が期待できます。
下記記事では、自閉症スペクトラム症(ASD)の人が向いている仕事について紹介しています。気になる方はぜひチェックしてみてください。
大人の自閉スペクトラム症(ASD)でお悩みの方は、新宿うるおいこころのクリニックへご相談ください
今回は、大人の女性にみられる自閉スペクトラム症(ASD)の特徴について解説しました。
女性の自閉スペクトラム症(ASD)は、男性よりも自閉的な特性が目立ちにくいことが多く、気付かぬうちに二次障害を併発している可能性もあります。
自分が該当するかもと思う際は、精神科・心療内科に相談すると適切なサポートを受けられるので、特性により支障をきたしている場合は相談してみましょう。
新宿うるおいこころのクリニックでも、大人の自閉スペクトラム症(ASD)の治療・相談に対応しています。経験豊富な専門医が、ライフスタイルや特性に応じた治療提案をすることで、1人ひとりに合わせた生きづらさの改善を目指せます。
「他の人と感覚が合わない」「円滑な人間関係が築けない」などのお悩みにも対応していますので、まずはお気軽にご相談ください。
<新宿うるおいこころのクリニックで行う自閉症スペクトラム(ASD)の治療について>
よくある質問
大人の自閉スペクトラム症(ASD)と診断される女性の顔つきに特徴はありますか?
大人の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ女性の顔つきは、感情表現が乏しい、目が合わない、状況に応じた表情ができないなどの特徴があるといわれています。
女性にみられる大人の自閉スペクトラム症(ASD)は軽症と判断されやすいのですか?
女性の大人の自閉スペクトラム症(ASD)は、表面的には社会へ適応していることから軽症と判断されやすいようです。中には、努力で補われていることで症状がみえにくくなっている可能性もあると考えられています。