「精神疾患」「精神障害」「精神病」はよく耳にする言葉ですが、それぞれ違う意味を持つことをご存じでしょうか。
実際、同じ意味として扱われているケースも多いですが、違いを知っておくことでメンタルヘルスへの理解を深めるきっかけになります。
そこでこの記事では、精神疾患・精神障害・精神病の違いについて解説するので、それぞれの単語の意味を知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
このコラムの監修医師
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。
私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
精神疾患と精神障害、精神病について
「精神疾患」「精神障害」「精神病」は、心の健康に関する言葉です。同一単語として使われることもありますが、実際にはそれぞれ異なる意味を持っています。
メンタル関連の病気を正しく理解する際は、それぞれの言葉が指す状態について知っておくと病状を把握しやすくなるので、まずは特徴についてみていきましょう。
精神疾患とは
精神疾患とは、精神に関連するさまざまな病気のことです。「疾患=病気」のことであり、精神に関する不調は精神疾患に含まれます。
具体例としては、統合失調症やうつ病、双極性障害などがあげられ、メンタル的な問題を伴う病気は全て精神疾患に分類されます。
精神障害とは
精神障害とは、精神疾患により身体的な機能が低下したり、社会活動に影響が出たりしている状態のことを指します。
例えば、うつ病により気分が落ち込んで外に出られない状態、てんかんにより人との交流を避けている状態、依存症により日常生活がままならない状態などは、精神障害に分類されます。
「障害」という単語自体、心身が正常に機能しないことで生じ続ける困りごとを指すため、「精神障害=精神疾患による困難や不調」と覚えておきましょう。
精神病とは
精神病とは、精神疾患の中でも幻覚・妄想などの症状がみられる病気のことを指します。
代表的な病気としては、現実との区別がつかなくなる統合失調症があげられ、そのほかにも妄想性精神病や錯乱精神病などが精神病に分類されます。
精神疾患と精神障害、精神病の違いについて
精神疾患と精神障害、精神病の違いは、精神疾患という大きな枠組みの中に存在する「精神病」という1つのカテゴリ、精神疾患の影響として生じる心身の異常や困難を「精神障害」と覚えておくと良いでしょう。
以下では、精神疾患と精神障害、精神病の違いを解説するので、違いがよく分からない方は参考にしてみてください。
精神疾患と精神障害の違い
精神疾患と精神障害は、指している対象が違います。
精神疾患は、うつ病や不安障害、てんかんといった精神系の病気自体を指す言葉です。一方、精神障害は精神系の病気により生じる困難や機能障害のことを指します。2つの言葉は、似ているようで違う意味を持っていることを理解しておきましょう。
精神疾患と精神病の違い
精神疾患と精神病では、言葉が示す病気の範囲が違います。
精神疾患では、精神系に分類される全ての病気を指す一方で、精神病では、精神系の病気の中でも妄想・幻覚などが生じる一部の病気のことをいいます。
精神疾患の種類
以下では、代表的な精神疾患としてあげられる「てんかん」「気分障害」「依存症」「妄想性障害」について、それぞれの特徴とあらわれる精神障害について解説します。
代表的な精神疾患:①てんかん
てんかんは、脳の神経細胞の異常な活動により起こる、てんかん発作を繰り返す精神疾患です。
一般的に、数秒~数分間程度で発作は収まりますが、けいれんを伴うタイプ、突然失神するタイプ、意識があっても記憶障害が伴うタイプなど種類はさまざまです。
また、異常があらわれた神経系に応じて、「体の一部が硬直する」「手足がしびれる」「言葉が出にくくなる」などの症状が伴います。
てんかんでみられる精神障害
発作の恐怖に伴い、引きこもりがちになったり不安が強まったりすることがあります。
また、発作による脳機能の低下や薬の影響で、「人の名前が思い出せない」「言葉が出ない」「道具を上手く使えない」「集中力が低下する」といった高次脳機能障害が起きる可能性も高いです。
参考文献
・てんかん対策|厚生労働省
代表的な精神疾患:②気分障害
気分障害は、気分の波がみられる精神疾患です。
うつ病や双極性障害は気分障害に該当し、落ち込みが続く場合はうつ病、落ち込みと高揚を繰り返している場合は双極性障害と呼ばれます。
気分の高揚は自覚しづらく見逃すこともありますが、症状に合わせた治療を行わないと悪化リスクが高まるといわれています。
気分障害でみられる精神障害
気分障害の場合、集中力の低下や対人関係の悪化といった支障があらわれます。また、うつ状態が酷くなると興味や喜びを感じにくくなり、仕事に行けなくなったり引きこもりがちになったりします。
下記記事では、気分障害の1つであるうつ病のきっかけや前兆サインについて解説しています。
代表的な精神疾患:③依存症
依存症は、特定の物質や行動に対する強い欲求が制御できず、生活に悪影響を及ぼす精神疾患です。
依存は、アルコール依存症や薬物依存症といった「物質への依存」、ギャンブル依存症や買い物依存症といった「行為への依存」に分けられ、やめたくても自力ではやめられないことが特徴です。
完治しても再発リスクが高く、長期的な治療が大切となるため、本人だけでなく家族や周囲が根気強くサポートしなければいけません。
依存症でみられる精神障害
やめようと思っても自分をコントロールできなくなるため、日常生活に支障があらわれます。
また、依存物質に触れられない状況では禁断症状が出ることがあり、イライラが増えたり暴力行為を引き起こしたりします。周囲との人間関係が悪くなるケースもあり、孤立感やネガティブ思考が離れなくなるようです。
代表的な精神疾患:④妄想性障害
妄想性障害は、現実とは異なる妄想を1カ月以上思い込み続ける精神疾患です。
幻聴や幻覚などは少ないため、妄想に関連しない状況であれば異変がみられないことが特徴です。
妄想性障害は、「被愛型」「誇大型」「嫉妬型」「被害型」「身体型」の5タイプに分けられます。以下の表ではそれぞれの特徴と妄想例を解説します。
タイプ | 特徴 | 妄想例 |
被愛型 | 特定の人物が自分を愛していると思い込む | 特定の芸能人が自分に行為を寄せている |
誇大型 | 実際にはありえないような特別な才能があると思い込む | 自分は神と話せる能力を持っている |
嫉妬型 | パートナーが不貞行為をしていると思い込む | 髪が乱れているだけで浮気をしたと確信 |
被害型 | 誰かが自分を傷つけようとしている思い込む | 隣人が殺そうとしている 誰かに常に見張られている |
身体型 | 自分の身体に異常があると思い込む | 自分は異臭を放っている |
妄想性障害でみられる精神障害
妄想性障害の患者は、妄想による思考の歪みが原因で周囲との関係が悪化しがちです。
例えば、妄想を現実だと思い込んでいるため他人の指摘に激怒したり、理解されないことで孤独感を抱いたりします。また、被害妄想から外に出ることを拒むケースもあるようです。
精神病の種類
以下では、代表的な精神病としてあげられる「統合失調症精神病」「周期精神病」「夢幻精神病」について、それぞれの特徴とみられる精神障害について解説します。
代表的な精神病:①統合失調症
統合失調症とは、自分の考えがまとまらなくなり、現実と妄想の区別がつかなくなったり、支離死滅になったりする精神病です。明確な原因は判明していませんが、脳の機能異常により起こると考えられています。
以下の表では、統合失調症の「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の特徴を解説します。
陽性症状 | ①妄想:実際には起こっていない体験を現実と思い込む ②幻覚:誰もいないのに声が聞こえる ③思考障害:考えがまとまらなくなる |
陰性症状 | ①妄想:実際には起こっていない体験を現実と思い込む ②思考の貧困:会話が理解できなくなる ③意欲の欠如:何かをしようという意欲がなくなる ④社会的引きこもり:自分の殻に閉じこもるようになる |
認知機能障害 | ①記憶力の低下:物事をすぐに覚えられなくなる ②注意・集中力の低下:作業に集中できなくなる ③判断力の低下:物事に優先順位をつけられなくなる |
統合失調症でみられる精神障害
他者に対する不信感や恐怖感が強まることで、眠れなくなったりコミュニケーションがとれなくなったりします。また、問題解決能力の低下により、「仕事でミスが増える」「周囲からの信頼が低下する」といった影響もあるようです。
統合失調症について詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。
代表的な精神病:②若年周期精神病
若年周期精神病とは、月経周期に伴いさまざまな精神問題があらわれる精神病です。
例えば、気分の変動や行動抑制、幻覚幻聴、支離死滅な発言などがみられることが特徴です。症状は、月経開始の1~7日頃に始まり月経の回復に伴い収まり、20~30代になると症状が良くなることが一般的です。
若年周期精神病でみられる精神障害
頭が働かず何も手につかない状態が続いたり、計算や認識が難しくなったりすることがあります。また、症状により家にこもりがちになることで、学力低下や友人関係の悪化、自己肯定感の低下などが伴うと考えられています。
参考文献
・4.若年性周期精神病の臨床像と神経生物学的病態|岡田 俊
代表的な精神病:③夢幻精神病
夢幻精神病とは、長期間に及ぶ睡眠不足や薬物の影響により、錯乱や幻覚があらわれる精神病です。
夢と現実の区別がつかず、現実世界の中に夢で見るような動物があらわれたり、非現実的な場面が展開されたりします。
夢幻精神病でみられる精神障害
現実と非現実の境界が曖昧になるため、混乱や不安感が強まるといわれています。また、夢幻状態になることで、情緒が乱れて日常生活や人間関係に影響をもたらす可能性があるようです。
新宿うるおいこころのクリニックでは、精神疾患(精神病)・精神障害の治療に対応しています
今回は、精神疾患と精神障害、精神病について解説しました。
精神疾患は精神系の病気のこと、精神障害は精神疾患に伴い生じる困難、精神病は精神疾患のうちの幻覚・幻聴を伴う病気のことを指します。
何らかのメンタル異常がみられた際は、精神科診療内に相談することで改善を目指せるので、早めに相談するようにしましょう。
精神疾患(精神病)・精神障害でお悩みの方は、新宿うるおいこころのクリニックへご相談ください。
臨床心理士、公認心理士在籍のカウンセリングにより、気持ちを整理したり適切な症状改善を目指せたりします。症状に合わせた治療のご提案も可能ですので、皆様のご来院を心よりお待ちしております。
新宿うるおいこころのクリニックの詳細は下記記事をご覧ください。
よくある質問
向精神薬は精神障害に使われますか
向精神薬は、精神障害によるうつ気分や不安に対して使われることがあります。処方をする際は、病状や生活への影響を検査した上で必要性を判断します。
精神病である統合失調症の診断はどのように行われますか
統合失調症の診断では、専門の医師による問診・検査を行います。患者の病歴や症状の度合い、生活習慣などを聞き、問診のみで判断できない場合は血液検査やMRI、心理検査を実施するケースもあります。