「会議中にどうしても動きたくなる」「いつも周りとの関係が上手くいかない」
このようなトラブルを抱えている場合、大人のADHDが原因かもしれません。
ADHDは先天性の発達障害ですが、大人になってから診断される人も少なくないものです。
この記事では、大人のADHDの特徴や特性、セルフチェック診断テストをご紹介します。子どものADHDとの違いや特有の二次障害も含めてお伝えするので、大人のADHDについて知りたい方は参考にしてみてください。
このコラムの監修医師
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。
私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
大人のADHDの特徴・特性
大人のADHDは、特性によって生じたトラブルがきっかけで気づくことが多く、注意力散漫や計画性の欠如などの特性が顕著になることがあります。トラブルとしては仕事上のミスが増える、人間関係が上手くいかないなどの問題がみられ、子どものADHDに比べて気分障害や不安障害を合併しやすいという特徴もあります。
ADHDは先天性の障害ですが、大人になるにつれて多動性や衝動性などの特性が修復される傾向にあるため、幼少期にADHDと診断された人が大人になって診断基準を満たさなくなるケースもあるようです。
大人のADHDの有病率
大人のADHDの有病率は2~2.5%といわれています。大人のADHD患者107名を対象に実施した調査によると、62%が混合型、31%が不注意型、7%が多動・衝動性型となっており、大人のADHDの主症状は不注意とされています。
また、特性によって発症しやすい併存症が異なり、混合型では行為障害や双極性障害の有病率が高いようです。中には、本人が自覚していなかったり他の精神疾患に隠れていたりするケースもあるため、専門医に相談した上で適切な診断・治療を受けることが大切となります。
参考
・注意欠如・多動症(ADHD)特性の理解
・成人ADHD(注意欠如多動障害)研究とADHD学生の支援
大人のADHDは見逃されやすい
大人のADHDは、本人がADHDの特性を自身の性格だと認識しているケースが多く、見逃されやすいといわれています。そのため、併発した精神疾患やストレスによる体調不良で受診したところ、ADHDと診断されることも少なくありません。
また、ADHDに対する認識が甘いため、診断や治療に至りにくいという背景もあるようです。
大人のADHDのセルフチェック診断テスト
多動・衝動性と不注意のセルフチェック診断テストを通して、大人のADHD傾向にいくつ当てはまるか確かめてみましょう。項目に当てはまる数が多いほど、傾向が高いといわれています。
多動・衝動性のセルフチェック診断テスト
- じっとできない、衝動的に行動してしまう
- 我慢ができない場面がある
- じっとしなくてはいけない場面では落ち着かない
- 興味の対象が変わりやすい
- 動き回ることで、周囲の人たちが落ち着かない
- 一番になりたがる、先にやりたがる
- 人が話していても、興味がないと別のことを考える
- なんでも口にしてしまい、後々後悔することがある
- 人の話を遮ったり活動を邪魔したりしてしまう
- 質問の途中で答えてしまう
- 話しかけられても聞いていないようにみられる
- 他の同性に比べてエネルギーがある
- ソワソワするため手足を動かす、椅子の上で動きたくなることがある
- 深く考えずに決断してしまう
- 衝動的に買い物をしてしまう
- 秘密を守れない
- 静かに読書ができない
- 指示や命令を間違って理解することがある
- 座らないといけない場面で席を立ってしまう
- 感情的になり、話し合いで解決できないことがある
不注意のセルフチェック診断テスト
- 指示に従えない、やらなくてはいけない作業を最後までやり遂げられない
- タスクや課題を忘れることがある
- 仕事や勉強を途中で投げ出すことがある
- 集中し続けることが難しい
- 物をどこに置いたか忘れる、置いた場所が分からなくなる
- 気が散りやすい
- 必要なものをなくすことがある
- 計画を立てることが難しい
- 勉強や仕事を最後までやり遂げられない
- 細部に注意を払えない、ミスをする
※上記の項目はあくまで目安となるものです。ADHDの診断を希望される場合は、精神科・心療内科への受診が大切となります。
参考
・ADHD傾向を持つ大学生に関する心理学的研究―女性のADHD傾向と対人恐怖心性、および孤独感に注目して―|長村 和美
大人のADHDの特徴・特性あるある
大人のADHDの特徴・特性によって生じやすいトラブルについて解説します。
大人のADHDの特徴・特性あるある①症状により自己肯定感が下がる
症状によって生じる、仕事のパフォーマンス低下や私生活でのトラブルが、自己肯定感低下につながるといわれています。例えば、注意力の欠如によりミスを繰り返している場合、自分自身に何かダメな点があると感じたり、自己否定に陥ってしまったりすることもあるといわれています。
自己肯定感が下がると、些細な出来事に対してストレスを感じやすくなる傾向にあり、結果として他の精神疾患を併発するきっかけになるようです。
大人のADHDの特徴・特性あるある②対人関係で感情的になりがち
大人のADHDの特性として、後先を考えず行動してしまうことが多く、対人関係において感情的になりやすいといわれています。
例えば、相手の発言を誤解したりコミュニケーションでのズレを感じたりする場面に直面した際、自身が感じるフラストレーションを制御できないことがあるようです。
また、衝動的な言動によって人間関係が悪化した場合、さらに感情が不安定になるという悪循環に陥るとも考えられています。
下記記事でも大人のADHDで生じる困りごとについて解説しています。合わせてご覧ください。
大人のADHDと子どものADHDにみられる特徴・特性ごとの違い現れ
大人のADHDと子ども(幼児期~中高生)のADHDにみられる特徴・特性ごとの違いについて解説します。
不注意
子どもの不注意では、忘れ物が多い、よそ見が多い、小さなミスが多いなどの特性がみられます。中高生になると、より高度な社会的スキルが求められるため、約束を忘れたり計画が立てられなかったりする症状も出現するようです。
大人のADHDも同じような特性が現れますが、子どもは不注意の自覚症状がない一方で、大人になると自身の行動に違和感を持ち始めるという違いがあります。
多動性
子どものADHDでは、じっとしていることが苦手で動き回ったり、授業中に席を立ったり、乱暴に物を扱うことで大きな音を立てたりする特性が、多動性としてみられるようです。中高生になると離席や乱暴さは減少しますが、じっとしていられず反抗的な生徒だと誤解されることもあります。
大人のADHDでは、そわそわと落ち着きがない、理由をつけて離席するなどの特徴がみられ、会議などでは落ち着かない気持ちを強く感じる傾向にあります。
衝動性
子どものADHDでは、ルールを守れない、他の子の邪魔をする、感情的で怒りやすいなどの衝動性がみられるほか、道路への飛び出しといった危険な行動を思い付きでする傾向にあります。
大人にみられる衝動性では、相手の話を最後まで聞けない、順番が待てない、共同作業や会議などでトラブルを起こすなどの特徴が目立つようです。
その他
不注意、多動性、衝動性に分類されない特徴・特性として、子どものADHDでは小学生年代では激しい反抗や攻撃行動、分離不安などの二次障害がみられ、中高生になると非行に走るリスクが懸念されたり気分の落ち込みが生じやすくなったりします。
大人のADHDでは、自信のなさが抑うつとして現れ、ネット依存やギャンブル依存、ひきこもりに発展するリスクが高まるようです。
参考
・心身医学の臨床における発達障害特性の理解 注意欠如・多動症(ADHD)特性の理解|村上 佳津美(近畿大学医学部堺病院心身診療科)
大人のADHD特有の二次障害
大人のADHDでは、失敗に対する不安や落ち込みが強くなることから、不安障害や依存症、ひきこもりに発展するリスクが高いといわれています。
以下では、大人のADHD特有の二次障害について解説します。
大人のADHD特有の二次障害①自信喪失による不安障害や薬物依存
大人になると、自身の特性や症状による失敗を自覚しやすくなるため、子どものADHDに比べて不安障害や抑うつ障害などの二次障害につながるリスクが高いといわれています。
また、気分の落ち込みや失敗への恐怖から派生した苦痛を和らげるために、薬物依存に陥るケースもあるとされています。
大人のADHD特有の二次障害②職場でのトラブルから発展するひきこもり
大人のADHDでは、職場でのトラブルや失職が引き金となり、ひきこもりに発展する可能性があるといわれています。また、思春期から受動攻撃性を抱えている場合、社会との孤立感が深まることでひきこもりに至るケースも考えられます。
ひきこもりに陥ると、社会復帰や自立が困難になるため、さらなる精神的ストレスによる悪循環を招くようです。
大人のADHD特有の二次障害③過集中からくるギャンブル依存
ADHDの特性として、物事に没頭しすぎる「過集中」と呼ばれる特性が存在します。
興味関心に強い集中力を発揮できるため長所になり得る特性ですが、対象がギャンブルやネットゲームの場合、依存症に陥るリスクが高まるようです。また、衝動性から過度な賭けをしたり冷静な判断ができなかったりと、トラブルに巻き込まれるリスクも考えられます。
病院で行う大人のADHDに対する治療
病院で行う大人のADHDに対する治療としては、認知行動療法や薬物療法があげられます。治療目的に合わせて異なる治療法が用いられるので、自分に最適な治療法をチェックしてみましょう。
病院で行う大人のADHDに対する治療①認知行動療法や心理療法
大人のADHDの治療では、二次障害に対する認知行動療法を行ったり、自己理解を深めるための心理療法が行われたりすることが一般的です。
また、就労面に関する支援を通して、ADHDの人がトラブルを抱えずに暮らしたり、自立したりするサポートを行うケースもあります。
病院で行う大人のADHDに対する治療②二次障害に対する薬物療法
薬物療法では、二次障害として現れている精神疾患に対して投薬を行います。
例えば、不安障害や抑うつ気分、不眠など症状に合わせた薬を使用することで、ADHDに伴う精神的な負担軽減や生活の質向上が期待できます。薬物療法は、患者の症状や状態に応じて調整が行われるため、独断で中止したり減薬したりしないことが大切です。
大人のADHDでお困りの方は、新宿うるおいこころのクリニックへご相談ください
今回は、大人のADHDの特徴・特性について解説しました。
大人のADHDは、注意力散漫や計画性の欠如といった特性を持つ精神疾患で、日常生活においてさまざまな困難を引き起こすことがあります。子どものADHDと違い、大人になると周囲から理解されにくく、本人もADHDの自覚がないままトラブルに悩まされているケースもあるため、何らかの異変を感じる場合はクリニックに相談してみることが大切です。
「大人のADHDかもしれない」と受診を迷っている際は、新宿うるおいこころのクリニックへご相談ください。
さまざまな治療を用意することで、気持ちを整理しやすくなったり二次障害の発症を防げたりできます。症状に合わせた治療のご提案も可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
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よくある質問
大人のADHDと子どものADHDに違いはありますか?
子どものADHDは、本能のまま行動しがちであるのに対し、大人は処世術を身に付けているため、 周囲に適応した上で特性が現れるという違いがあります。
例えば、子どものADHDではじっとできず動き回っていたが、大人になると理由をつけて離席するようになるなど、行動が表面化しにくくなります。
大人の女性にみられるADHDの特徴を教えてください
大人の女性にみられるADHDでは、男性と比べて感情面の症状が多くみられたり精神障害を抱えていたりするため、診断が困難であることが特徴といわれています。