「特別扱いされないとイライラする」
このような悩みがある場合、パーソナリティー障害の疑いがあります。パーソナリティー障害は症状ごとに10タイプに分類され、性格だと思っていたものが実は病気だったというケースもあるので、パーソナリティー障害の症状や種類、対策法をみていきましょう。
このコラムの監修医師
新宿うるおいこころのクリニック 院長
大垣 宣敬
患者様が抱えているものは1人1人異なっており、症状の種類や程度も千差万別です。 私たちは患者様からお話を聞くことで悩みを共有し、ご希望や思いを丁寧に汲み取りながら、患者様中心の医療を共に実践していけるよう心がけています。
目次
パーソナリティー障害とは
パーソナリティー障害とは、他の人とは違う偏った思考や行動により、人間関係に支障が出たり本人が苦しんだりする精神疾患です。
有病率は人口の約15%と高いですが治療につながりにくく、受診時には他の精神疾患を合併しているケースがほとんどのようです。
性格がダメってこと?と思われがちですが、ものの考え方、対人関係の築き方、感情の抑え方といったパーソナリティー機能の偏りから生じるもののため、「性格が悪い=パーソナリティー障害」ではないことを覚えておきましょう。
パーソナリティー障害の症状
パーソナリティー障害は、極端な思考の偏りから日常生活や仕事に長期的な支障がみられます。自分自身が苦しむだけでなく、周囲の人たちも辛い思いをする原因となることが特徴です。
また、境界性パーソナリティー障害では感情の不安定さ、依存性パーソナリティー障害では孤独への恐怖など種類ごとに異なる症状があらわれます。
パーソナリティー障害の原因
詳しい原因は明らかになっていませんが、生まれ持った特性や育った環境が影響しているようです。
例えば、
「辛い家庭環境で育った」
「家族がそばにいなかった」
など、様々な要因が作用して情緒的な発達に影響を与えたり、対人関係の形成に問題を引き起こしたりすると考えられています。
パーソナリティー障害の種類
アメリカ精神医学会の診断基準では、パーソナリティー障害の種類は「A群」「B群」「C群」の3つに分類されます。以下では、それぞれのタイプに当てはまるパーソナリティー障害について詳しく解説します。
A群「行動や思考が変わっているタイプ」
A群には、
「妄想性パーソナリティー障害」
「統合失調質パーソナリティー障害」
「統合失調型パーソナリティー障害」
が分類されます。
妄想性パーソナリティー障害
妄想性パーソナリティー障害は、他者に対して強い不信感を抱くことが特徴です。
「他人が自分を狙っている」
「相手が悪意を持っている」
と思い込みやすく、過剰な自己防衛をしたり些細な出来事からも攻撃を受けていると感じたりするようです。
また、「ミスを指摘された=自分をバカにしている」といった被害妄想も強く、相手の言動を常に疑いの目でみる傾向があります。
統合失調質パーソナリティー障害
統合失調質パーソナリティー障害は、感情表現が乏しかったり他者との交流を避けたりするタイプです。1人でいることを好む傾向にあり、誰かと関係を築くことに興味がないように見えるのが特徴です。
統合失調型パーソナリティー障害
統合失調型パーソナリティー障害は、風変りな行動をとる傾向があるため親密な関係になると居心地の悪さを感じることが特徴です。
例えば、
「TPOを合わせられない」
「テレパシーなどの特殊能力を信じている」
といった他人から理解されにくい行動をとるため、他者との交流を好まない上に関係構築能力が低いといわれています。
B群「感情の波が激しいタイプ」
B群には、
「境界性パーソナリティー障害」
「自己愛性パーソナリティー障害」
「反社会性パーソナリティー障害」
「演技性パーソナリティー障害」
が分類されます。
境界性パーソナリティー障害
境界性パーソナリティー障害は、過度に孤独を恐れるタイプです。
1人になるのが怖く見捨てられ不安があるため、
「自殺をほのめかす行動をとる」
「気分の波が大きい」
「かんしゃくを起こす」
といった行動がみられます。
若い女性に多いといわれており、0か100で判断しがちだったり傷つきやすかったりすることも特徴です。
自己愛性パーソナリティー障害
自己愛性パーソナリティー障害は、承認欲求から称賛を強く求めたり、自分の存在を過大評価したりするタイプです。
自己中心的な思考が強いといわれており、相手の立場に立って考えることが苦手な傾向があります。また、好意を期待しがちで、相手が望むことをしてくれないと不機嫌になりやすいようです。
反社会性パーソナリティー障害
反社会性パーソナリティー障害は、自分の利益や快楽を優先して人を騙したり、犯罪行為に走ったりする特徴を持っています。
相手の気持ちを考えず自分を正当化するため、行動により他者が傷ついた場合でも
「そっちが悪い」
「こうするしかなかった」
と罪悪感を抱かない傾向にあります。また、自己評価が高く頑固だったり無責任で衝動的に動いたりするようです。
演技性パーソナリティー障害
演技性パーソナリティー障害は、注目されたいという気持ちが強く、話の中心にいないと怒ったり感情を大げさに表したりするタイプです。
自分は特別な存在だと感じることも特徴で、周囲に対して特別視を求める傾向にあります。また、注目を集めるために挑発的な服装を着たり、外見にとらわれたりします。
C群「内向的で不安感・恐怖心が強いタイプ」
C群には、
「依存性パーソナリティー障害」
「強迫性パーソナリティー障害」
「回避性パーソナリティー障害」
が分類されます。
依存性パーソナリティー障害
依存性パーソナリティー障害は、相手に過剰な依存をしてしまうタイプです。
自立心が低いことが特徴で、大切な決断を他人に委ねたり単独行動が苦手だったりします。また、相手に見放されることへの強い恐怖感から、
「自己主張ができず無理をし過ぎる」
「嫌われるのが嫌で意見に従いすぎる」
といった特徴がみられます。
強迫性パーソナリティー障害
強迫性パーソナリティー障害は、秩序やルールへの過剰なこだわりが特徴です。
小さなこともこだわるため、柔軟性に欠けたりミスがないか何度も確認したりします。
似た精神疾患として強迫性障害があげられますが、強迫性パーソナリティー障害の場合はルールに従うことが苦痛と感じておらず、自らの意思で快く行っている傾向にあります。
回避性パーソナリティー障害
回避性パーソナリティー障害は、拒絶や批判をされるかもしれない状況を避けるタイプです。
例えば、
「友達を作ろうとしても好かれる自信がない」
「自分が目立ったら批判されるのではないか」
などの思考に陥りがちで、強い不安から人前に出ることを避けたり自己表現を控えたりすることが特徴です。
パーソナリティー障害の診断方法
パーソナリティー障害は、「自己機能」と「対人関係機能」の2つから判断することが特徴です。診断では、双方の機能のつながりや症状の持続期間、症状が出る状況などが診断項目に含まれます。
パーソナリティー障害と診断された場合は、障害の程度や慢性度、生じている苦痛から軽度・中度・重症度のいずれかに区別されます。
参考
パーソナリティ症および関連特性群―正常なパーソナリティ機能とパーソナリティ症, パーソナリティ特性―|加藤 敏(自治医科大学名誉教授)
パーソナリティー障害の治療法
治療をする際は、パーソナリティー障害は物事に対する捉え方が柔軟に働かないために生じるものであり、その人自体に問題はないということを前提とした上で、治療を始めることが大切となります。
以下では、パーソナリティー障害の治療で用いられる「精神療法」と「薬物療法」についてお伝えします。
パーソナリティー障害の治療法①精神療法
精神療法では、患者の思考パターンや行動を見直す「認知行動療法」、感情調整や対人スキル向上に向けた「支持的精神療法」を行います。
また、深層心理に注目して問題解決を目指す「精神分析的精神療法」を活用するケースもあります。これらの精神療法を通して内面を理解することで、感情の管理や対人関係の改善が期待できるようです。
パーソナリティー障害の治療法②薬物療法
治療は精神療法が中心となりますが、不安感や抑うつなどの症状に合わせて選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や抗精神病薬が使用されることがあります。
また、他の精神疾患を合併している場合は、それぞれの症状に向けた薬も処方され総合的な回復を目指します。
参考
境界パーソナリティ障害治療に関する最近の動向―精神療法を中心に―|白波瀬 丈一郎(慶応義塾大学医学部精神・神経科学教室)
パーソナリティ障害|こころの情報サイト(国立精神・神経医療研究センター)
パーソナリティー障害の対策法
ここでは、パーソナリティー障害と向き合い、苦痛を軽減するための対策法をお伝えします。
パーソナリティー障害の対策法①自身が抱える問題を理解する
抱える問題を理解することで、自身の行動が日常生活や対人関係にどのような影響を与えているか知るきっかけになります。
方法としては、
「日記をつける」
「自己分析を行う」
「信頼できる人に話す」
など様々な方法があり、1人で対処できない場合はカウンセラーへの相談もオススメです。
また、病気に関する知識を増やすことも理解を深める上で大切なので、ネットで調べたり専門家に聞いたりしてみると良いでしょう。
パーソナリティー障害の対策法②精神科・心療内科へ受診する
症状に悩まされている場合は、精神科・心療内科への受診が大切です。
精神科・心療内科では、診断をもとに適切な治療を提供するため、症状の根本改善や心の安定が期待できます。また、症状からくる対人トラブルや悩みの軽減も目指せるので、一度相談してみると良いでしょう。
パーソナリティー障害のまとめ
今回は、パーソナリティー障害の症状や種類、対策法について解説しました。
パーソナリティー障害は、偏った思考や行動により苦痛を感じる精神疾患です。人口の約15%にみられる珍しくない疾患ですが、治療につながりにくい上に他の精神疾患との合併も多いため、異変を感じたタイミングで病院へ相談することが大切となります。
よくある質問
妄想性障害とは何でしょうか。
妄想性障害は、現実には起こっていない妄想を長期間思い込み続ける精神障害です。
例えば、
「自分には特別な力がある」
「有名人と付き合っている」
「隣人に嫌がらせをされている」
などの妄想に悩まされますが、指摘されても病気と認めない傾向にあります。
妄想型統合失調症とパーソナリティー障害の違いは何ですか?
妄想型統合失調症とパーソナリティー障害は、根本的な発症原因が違います。
妄想型統合失調症は、脳の機能異常からくる妄想・幻覚症状に悩まされる精神疾患です。一方、パーソナリティー障害はパーソナリティー傾向の問題により症状が起きる精神疾患であり、人とは違う考え方や捉え方から問題が生じることが特徴です。