統合失調症にかかった場合、抗精神病薬を用いた薬物療法を行うケースがあります。
症状軽減などのメリットをもたらす抗精神病薬ですが、使用方法を間違えると副作用や悪化につながることも。では、服薬の際はどのようなことに注意すれば良いのでしょうか。
この記事では、統合失調症の治療薬として用いられる抗精神病薬の種類や効果、副作用、注意点について解説します。
目次
統合失調症とは
統合失調症とは、思考や感情に一貫性がなくなってしまう精神疾患のことです。
代表的な症状には、現実と区別できない幻覚や幻聴、思い込みによる異常行動、感情表現や意欲低下などがあり、日常生活や対人関係に大きな支障をきたします。
統合失調症の原因は、はっきりと分かっていませんが、ストレスや遺伝が原因の一つであると考えられています。
下記の記事では、統合失調症の症状や考えられる原因について詳しく解説しています。統合失調症について詳しく知りたい方はチェックしてみてください。
<統合失調症について詳しく知る>
統合失調症の治療における薬物療法
統合失調症の薬物療法には、①症状を抑えて生活しやすくすること、②症状が再発しないようにすること、という2つの目的があります。
その際、抗精神病薬と呼ばれる脳内を正常な働きに戻す薬が活用され、精神状態の安定化や幻覚や妄想などの症状の軽減を目指します。
抗精神病薬は、多くの患者に対して効果がみられますが、同時にさまざまな副作用も生じるため、医師に症状経過を報告しながら服用していくことが大切です。
抗精神病薬の種類
ここでは、抗精神病薬の種類とそれぞれが持つ効果について解説します。
定型抗精神病薬
定型抗精神病薬とは、快楽を感じさせる神経伝達物質「ドパミン」の過剰分泌を抑え幻覚や妄想などの症状を改善させる薬です。
副作用としては、眠気やめまい、不眠などがあげられ、パーキンソン症候群や女性化乳房などの症状が生じる可能性もあるといわれています。
非定型抗精神病薬
非定型抗精神病薬とは、統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)だけでなく、意欲低下やや認知機能障害にも効果が期待できる薬のことです。
また、パーキンソン症候群や高プロラクチン血症などの副作用が少ないとされ、定型抗精神病薬よりも生活に影響を及ぼさない薬といわれています。
抗不安薬
抗不安薬は、強い不安や緊張を和らげる薬です。例えば、不安が強くて外出できない、緊張で周囲の人と会話が成り立たないなどの症状がみられる際に使われます。
急に服用を中止すると、強いイライラやてんかん症状に発展する可能性があるため、注意が必要です。
睡眠導入薬
睡眠導入薬は、統合失調症に伴い生じる睡眠障害を改善させるための薬で、眠りにつきやすくする効果があります。
服用を続けると、薬に対する耐性がつき効果が薄れてしまうため、必要最小限の量と期間で効果を出すことが大切です。
抗うつ薬
抗うつ薬は、陰性症状でみられるうつ状態を改善させる薬です。
服用をすることで、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンなどの濃度を調節し、気分を高めたり落ち着かせたりする効果を得られます。
抗精神病薬の作用
統合失調症の発症には、興奮作用のある「ドパミン」やリラックス作用のある「セロトニン」の過剰分泌や異変が大きく関わっているとされています。
ここでは、抗精神病薬がドパミンとセロトニンにもたらす作用について解説します。
ドパミンへの作用
ドパミンは過剰分泌されると、妄想や幻覚を引き起こす原因となります。
抗精神病薬には、ドパミンの働きを抑え正常値に戻す作用があるため、統合失調症の症状改善が期待できるのです。
セロトニンへの作用
意欲低下や食欲不振、抑うつなどの症状が出ている場合、セロトニンの異常によりドパミンの働きを低下させている可能性があります。
抗精神病薬により、セロトニンの働きを抑えることでドパミンが促進され、感情・思考・意欲の低下や認知機能改善などの作用をもたらします。
抗精神病薬の副作用
抗精神病薬の副作用としては、下記の症状があげられます。
- 眠気、めまい、たちくらみ
- 口渇、便秘、眼圧上昇、排尿困難
- 不整脈、心拍数上昇
- 発熱、震え、筋肉のこわばり
- パーキンソン症状、ジストニア、アカシジア
- 過鎮静による傾眠、抑うつ状態
- 内分泌・代謝
- 糖尿病、高血糖、体重増加
- 性機能障害
- 月経異常、乳汁分泌、性機能不全
副作用の症状や発生頻度は薬により異なりますが、主に吐き気やめまい、発疹、頭痛、倦怠感などがあげられます。
薬によっては勝手に服用を中断することで、病状悪化や離脱症状につながることもあるため、必ず医師の指示に従うことが大切です。また、副作用がつらく服用をやめたい際も、事前に医師と相談することで減薬や切り替えなどの対応をしてもらえます。
統合失調症に使われる剤形
抗精神病薬は、同じ配合成分でも異なる剤形があります。
剤形ごとに摂取量や効果の持続性などが変わるため、投薬を始める際はライフスタイルや好みに合わせて選ぶと良いでしょう。
剤形 | 摂取方法 |
飲み薬 | 水やぬるま湯で飲み込む |
水なしタイプ | 溶かしたり噛んだりする |
注射剤 | 注射を用いて体内に直接投与 |
持続性注射剤 | 効果が長期間持続する注射を投与 |
飲み薬
飲み薬タイプには、カプセルや粉薬、錠剤などがあり、服用する際は水分と一緒に摂取します。
薬によっては、水・ぬるま湯以外での服用により効果を弱める可能性があるため、服用時には指定の液体で十分に流し込むことが大切です。
水なしタイプ
水なしタイプとは、水分不要で口の中で溶ける錠剤や噛む錠剤のことです。
場所を問わず服用したい、飲み込む動作が苦手という方は、水なしタイプがおすすめです。
注射剤
注射剤は、注射を用いて直接体内に投与する薬のことです。
直接体内に薬が入り込むため、飲み薬や水なしタイプと比べて即効性が高いですが、副作用が生じやすいというデメリットもあります。
持続性注射剤
持続性注射剤は、筋肉に投与することで長期間残留するように設計された注射薬のことです。毎日薬を飲む必要がなく、副作用の発生率も低いため、統合失調症の治療においてメリットが大きいといわれています。
抗精神病薬は妊娠中に使えるのか
抗精神病薬は、妊娠中に服用しても胎児への影響が少ないといわれていますが、薬によっては奇形リスクにつながることもあるため、妊娠が発覚した際は医師に相談すると良いでしょう。
また、妊娠中に抗精神病薬を断薬すると、母体の精神状態が悪化するとも示唆されています。胎児に対しても、早産や低体重児などの悪影響を及ぼす可能性があるといわれているため、医師の指示に従い服薬することが大切です。
妊娠中の抗精神病薬の使用は、その時の健康状態や症状、副作用などを総合的に考慮した上で、判断する必要があります。抗精神病薬の使用を中止した場合でも、心理療法や生活習慣改善、オーソモレキュラー療法などの非薬物療法の選択肢もあるため、状況に応じて治療法を変えていくと良いでしょう。
服薬する際の注意点
ここでは、服用にあたり気を付けるべき2つの注意点について解説します。
勝手に中断しない
統合失調症の薬は、症状改善や再発予防に効果がありますが、即座に改善が見込めるものではありません。副作用がつらい、薬の種類や量を変えたいなどの理由で薬を中断したい場合は、必ず医師に相談するようにしてください。
また、効果が出たからといって服用中止すると、症状悪化や副作用が発症する可能性があります。早期の改善をしたい場合、治療計画に沿って薬を服用し続けることが大切です。
喫煙・アルコールは避ける
統合失調症の薬は、喫煙やアルコールと相互作用することがあります。
例えば、喫煙が薬の効果を低下させたり、副作用を増加させたりすることがあります。また、アルコールとの組み合わせにより薬の効果が強まり、眠気やふらつきなどの副作用が生じることもあるため、注意が必要です。
また、アルコールや喫煙は精神的なストレスや不安を増加させるため、統合失調症の症状が悪化するともいわれています。
症状悪化や再発につなげないためにも、抗精神病薬の服用期間は喫煙やアルコールを避けるよう心がけましょう。
統合失調症の薬物治療をやめるタイミング
一般的には、統合失調症の初回発症後、少なくとも2年間は薬物治療を続けることが推奨されています。この長期間の服用により、再発リスクが低減したり、症状が安定し社会復帰が容易になったりするのです。
これらの期間はあくまで目安であり、薬物の効果や副作用は個人差があるため、薬物治療を中断するかどうかは主治医と相談しながら決める必要があります。
その際は、以下の点に注意しながら意思決定が行われることが一般的です。
- 精神症状が安定しているかどうか
- 身体的な健康状態や副作用の有無
- 生活や社会的な支援の程度
- 自分自身の希望や意思
薬物治療をやめることは、統合失調症患者にとって大きなな決断となります。一人で判断せずに、主治医や家族、支援者などと十分に話し合ってから決めましょう。
【統合失調症と薬の関係】まとめ
今回は、統合失調症で用いられる抗精神病薬の特徴や副作用について解説しました。
抗精神病薬は、症状別にさまざまな種類から使い分けられ、症状緩和に大きく効果を発揮します。また、服用することで日常生活を送りやすくなりますが、副作用が生じる薬でもあるため、医師の指示を守りながら服用するようにしましょう。
よくある質問
薬の副作用がつらい場合はどうすればいいですか?
減薬や服用中止などの処置をとらせていただくため、自ら服用を中止せず必ず担当医へご相談ください。
薬を飲んでも統合失調症の症状が改善されている気がしません
抗精神病薬は、効果が実感できるまでに1週間~1カ月ほど要します。1カ月以上経過しても効果を感じられない場合は、掛かり付けのクリニックにご相談ください。